リテールメディアという言葉は耳にする機会が増えたものの、「具体的にどのような仕組みなのか」「自社のマーケティングにどう活用できるのか」といった疑問を感じている方もいるのではないでしょうか。
そこで本記事では、リテールメディアの基本的な仕組みやメリット、成功事例を詳しく解説します。この記事を読めば、リテールメディアを活用した販促戦略の全体像が理解できます。
リテールメディアとは
リテールメディアが注目される背景
リテールメディアの種類
リテールメディアを活用するメリット
リテールメディアの成功事例
リテールメディアを始めるための5STEP
リテールメディア活用時の注意点
まとめ|リテールメディアで新たな販促機会を創出しよう
リテールメディアとは
リテールメディアとは、小売業者が自社の顧客購買データを活用して、自社のサイトやアプリ、店舗内で広告を配信する仕組みを指します。
ECサイトで商品を検索したときに表示される広告や、ドラッグストアの店頭に設置されたデジタルサイネージの広告などがこれに該当します。これまで広告配信の役割はメディア企業や広告代理店が担ってきましたが、リテールメディアでは小売業者自身が広告媒体となるのが特徴です。
小売業者は「誰が、いつ、何を買ったか」という購買履歴を持っています。この購買データを使えば、メーカーは購入意欲の高い顧客に絞って広告を配信でき、マーケティングの精度を高めることができます。
OMO・オムニチャネルとの違い
リテールメディアと混同されやすい概念として、OMOとオムニチャネルがあります。これらは目的や仕組みが異なるため、違いを整理しておきましょう。
| リテールメディア | CMO | オムニチャネル | |
|---|---|---|---|
| 対象者 | メーカー・小売業者・消費者 | 消費者 | 消費者・企業 |
| 主な内容 | 購買データを使った広告配信 | オンラインとオフラインの双方向連携 | 全販売チャネルのデータ統合 |
| 施策例 | ECサイトの広告、店舗内のサイネージ広告 | QRコード決済、ネット注文の店舗受取 | 在庫の共有、ポイントの統合 |
OMO(Online Merges with Offline)とは、オンラインとオフラインを分離せず、統合された顧客体験を提供する戦略です。店舗のQRコードからスマートフォンで購入したり、ネットで注文した商品を店舗で受け取ったりと、双方向での購買体験を設計します。
オムニチャネルとは、企業が持つすべてのチャネルを連携させ、一貫した購買体験を提供する手法です。OMOと共通する施策に加え、SNSからECサイトへの誘導や、店舗からアプリへの誘導なども含めた全方位での連携が特徴といえます。
どちらも顧客体験の向上を目的とした施策です。一方、リテールメディアは小売業者が広告媒体となり、メーカーに広告枠を提供することで収益を得る仕組みです。顧客体験の向上ではなく、広告配信による収益化を目的としている点が根本的に異なります。
リテールメディアが注目される背景
リテールメディアが注目を集めている背景には、購買行動の変容、データ規制の強化、リテールDXの進展という3つの要因があります。
まず購買行動の変容です。消費者はスマートフォンで情報を収集しながら、ECサイトと実店舗を使い分けるなどして、オンラインとオフラインを行き来するようになりました。この変化により、小売業者は自社のアプリやLINEなどで消費者と直接つながり、購買データを保有できるようになりました。
次にデータ規制の強化です。クッキー規制により第三者データの活用が難しくなる中、小売業者が直接取得するファーストパーティデータ(企業が自社で直接収集・保有している顧客データ)の価値が高まっています。
最後にリテールDXの進展です。POSシステムや顧客管理システムの高性能化により、小売業者は蓄積した購買データを広告配信に活用できる技術基盤を整えました。デジタルサイネージやアプリ内広告といった配信手段も普及しています。
こうした環境変化により、メーカーは小売業者と組むことでコンバージョンを測定しながらROIを高めることができるようになりました。その結果、新しいマーケティングが可能になったのです。
▶︎あわせて読みたい:データドリブンとは?メリットや取り組むポイントをわかりやすく解説
リテールメディアの種類
リテールメディアは、大きく以下の4つに分類できます。
- オンライン型
- 店舗・オフライン型
- アプリ・CRM連携型
- SNS・インフルエンサー連携型
それぞれの特徴と活用方法を見ていきましょう。
オンライン型リテールメディア
オンライン型リテールメディアは、ECサイトを広告媒体として活用するものです。
代表的なのがECサイト内広告で、消費者が商品を検索した際に関連商品をバナーや検索結果に表示させます。検索連動広告は、消費者の検索キーワードに応じて関連する広告を表示するものです。
またオンライン型リテールメディアは、DSP(デマンドサイドプラットフォーム)連携により、ECサイト外の広告ネットワークとも連携可能です。ECサイトで閲覧した商品の広告を他のWebサイトやアプリでも表示させるリターゲティング広告などが良い例です。
店舗・オフライン型リテールメディア
店舗・オフライン型リテールメディアは、実店舗を広告媒体として活用するものです。
デジタルサイネージは、店頭に設置する液晶ディスプレイを活用した広告です。映像や音楽を使って商品情報を伝えられるため、紙のPOPより記憶に残りやすい特徴があります。時間帯や曜日によって配信内容を変更でき、週末は家族向け、平日は会社員向けといった使い分けも可能です。
店頭POPは、商品棚や店内に設置される広告です。デジタル広告と連動したデザインにすれば、SNSで見た商品を店頭で再認識してもらえます。
アプリ・CRM連携型リテールメディア
アプリ・CRM連携型リテールメディアは、小売業者のアプリや顧客管理システムを広告媒体として活用するものです。
アプリ広告は、会員の登録情報や購入履歴といったファーストパーティデータを活用し、興味関心の高い広告を配信します。プッシュ通知を使えば、リアルタイムで情報を届けることができます。店内にBeacon(ビーコン)を設置しておけば、来店中の顧客のスマートフォンに特売情報を送信することも可能です。
クーポン配信は、購入履歴に基づいて個別のクーポンを提供する仕組みです。顧客一人ひとりに最適な情報を届けることができる点が強みといえます。
▶︎あわせて読みたい:パーソナライズとは?意味・メリット・具体的な活用方法を解説
SNS・インフルエンサー連携型リテールメディア
SNS・インフルエンサー連携型リテールメディアは、SNSプラットフォームを広告媒体として活用するものです。
近年、消費者の購買行動が大きく変化しています。インターネットユーザーの約51%が購入前にオンラインでリサーチを行っており、検索エンジンやブランドの公式サイトとともに、SNSも情報収集の手段として活用されています(参照:Meltwater「2024年業界別インサイトレポート: 小売業界」)。SNSで商品情報を収集してから購入を決める消費者が増えているのです。
こうした行動変化を踏まえ、InstagramやX(旧Twitter)で配信されるSNS広告が注目されています。さらにライブコマースを通して商品をリアルタイムで紹介したり、SNSキャンペーンを活用してハッシュタグ投稿を促したりする施策が展開されています。
▶︎あわせて読みたい:UGCとは?注目される背景や活用するメリット・手順・成功事例を紹介
リテールメディアを活用するメリット
リテールメディアは、広告主(メーカー)、小売企業、消費者の三者にメリットをもたらします。それぞれの立場のメリットを解説します。
広告主(メーカー)側のメリット
広告主(メーカー)にとって、リテールメディアの最大のメリットは購買データに基づく高精度なターゲティングができることです。
小売業者が保有するファーストパーティデータの活用により、購買履歴や閲覧行動に基づいた広告配信が可能になります。
また効果測定の精度が向上し、どの広告がどれだけ売上に貢献したかを正確に把握することも可能です。
小売企業側のメリット
小売企業にとって、リテールメディアは収益源の多角化につながるのがメリットです。広告枠の提供により、これまでの商品販売に加えて広告収入という新たな収益を得ることができるからです。
また顧客ロイヤルティの強化にも貢献します。購買データを活用して顧客一人ひとりに最適な情報やクーポンを提供すれば、顧客満足度が向上します。結果として来店頻度や購入金額が増え、収益の拡大が期待できるでしょう。
消費者側のメリット
消費者にとって、リテールメディアはパーソナライズされた情報を受け取ることができるのがメリットです。自分の興味や購買履歴に基づいた広告やクーポンが届くため、本当に欲しい商品を見つけやすくなります。
またCX(カスタマーエクスペリエンス)の向上にもつながるのもメリットです。オンラインとオフライン両方で、最適なタイミングで必要な情報を受け取ることができるため、購買体験全体の満足度が高まります。お得なクーポンを活用すれば通常より安く購入でき、より充実したショッピングを楽しめるでしょう。
リテールメディアの成功事例
リテールメディアを活用して成果を上げている以下の企業の事例を紹介します。
- Walmart
- Amazon
- マツモトキヨシ
- KATE
Walmart:購買データ × DSP広告
米国最大手の小売業者であるWalmartは、2021年に広告プラットフォーム「Walmart Connect」を本格展開しました。2022年度の広告収益は27億ドルに達しています。
Walmartの強みは、ECサイトでの閲覧データと実店舗での購買データを統合し、顧客の興味関心に合わせた広告を配信できることです。店舗では壁面や決済端末などに約17万台のディスプレーを設置し、購買データに基づいた広告を表示しています。
さらにDSP(複数のWebサイトに効率的に広告配信できるシステム)を導入しました。これによりメーカーは、Walmartの購買データを使って他社のサイトやアプリにも広告を配信できるようになりました。購買データを活用した広告配信の範囲を拡大することで、新たな収益源を確立しています。
Amazon:検索意図 × 広告収益モデル
Amazonの2022年の年間広告売上高は377億ドルを超え、前年から21.1%増と好調を維持しています。顧客が商品を検索した際に、検索結果に関連商品をスポンサー広告として表示させることで、購買意欲の高い顧客に直接アプローチしています。
Amazonの強みは、購買に直結する検索行動データを持っている点にあります。顧客が検索したキーワードに応じて関連商品の広告を表示するなど、検索意図に沿った広告配信が可能です。検索と購買が同じプラットフォーム上で完結するため、広告から購入までの導線がスムーズなのが特徴といえます。
マツモトキヨシ:店頭デジタルサイネージ × 顧客分析
マツモトキヨシは「Matsukiyo Ads」というプラットフォームで、デジタル広告とポイントカードアプリを連携させています。顧客が広告を見てから実際に店頭で商品購入に至るまでを一貫して追跡できるため、正確な効果測定が可能です。
メーカーが出稿した広告が会員に配信され、その後店舗で商品を購入したかどうかも分析できるのが特徴で、値下げに頼らない販促が可能になります。ドラッグストア業界の競争が激化する中、リテールメディアを活用して収益を確保しています。
KATE : SNSバイラル × 店頭購買の連動
KATEの「リップモンスター」は、一般的なリテールメディアとは異なりますが、SNS施策が店頭購買につながった成功例として注目されています。
2021年5月の発売前からTikTokでオリジナルのブランドエフェクトを開発し、エフェクト利用の動画総再生回数は約460万回に達しました。商品は発売から1週間でセルフメイク向け口紅市場でシェア50%を超え、約1年半で累計出荷数550万本を記録しました。全メイク市場の口紅カテゴリーでシェアNo.1を達成しています。
SNSでの認知拡大が実店舗での購入に直結し、「TikTok売れ」という現象を生み出しました。デジタルとリアルを連動させることで、認知から購買までスムーズに導いた事例といえます。
リテールメディアを始めるための5STEP
リテールメディアを始めるには、以下の5つのステップを順に進めていきます。
- ターゲットを設定する
- メディア(媒体)を選ぶ
- オンラインでのプロモーションを実施する
- 店頭でのプロモーションを実施する
- 効果測定を行い、PDCAを回し続ける
それぞれのステップを詳しく解説します。
STEP1. ターゲットを設定する
リテールメディアで成果を出すには、まず誰に広告を届けるかを明確にする必要があります。
小売業者が保有する顧客データを分析し、購買意欲の高い層を特定しましょう。年齢や性別、居住地域といったデータに加え、過去の購買履歴や閲覧行動も確認します。
たとえば「30代女性で過去3か月以内に化粧品を購入した顧客」といった具体的なターゲット像を描きます。ターゲットが明確になれば、適切なメッセージやクリエイティブを作成することが可能です。またどの媒体で配信すべきかの判断材料にもなります。
STEP2. メディア(媒体)を選ぶ
ターゲットが決まったら、どのメディア(媒体)で広告を配信するかを選定します。
小売業者から「ECサイトやアプリの利用者層」「店舗を訪れる顧客の属性」といったデータを受け取り、ターゲット層が多く利用している媒体を特定しましょう。
媒体を選定する際には、ターゲットとの接点の多さだけでなく、購買につながりやすいかを考慮するのも大事です。ECサイト内の広告は商品を探している消費者に直接アプローチできるため、即効性が期待できます。一方、SNS広告は幅広い層への認知拡大に向いています。目的に応じて複数の媒体を組み合わせることも検討しましょう。
STEP3. オンラインでのプロモーションを実施する
媒体が決まったら、オンラインでのプロモーションを開始します。
小売業者のECサイトやアプリを活用して商品を宣伝しましょう。購買データに基づいたセグメント配信により、興味関心の高い顧客に絞って広告を届けることが可能です。
クーポン配信も購買を促す有効な手段です。プッシュ通知を使えば、タイムリーに情報を届けることができます。またSNS広告を併用すれば、より広い層に認知を拡大できます。InstagramやX(旧Twitter)で商品の魅力を伝え、ECサイトや店舗への誘導を図りましょう。オンラインでの接点を増やすことが、次のステップにつながります。
STEP4. 店頭でのプロモーションを実施する
オンラインプロモーションと並行して、店頭でのプロモーションも展開しましょう。
デジタルサイネージを活用すれば、オンライン広告と同じクリエイティブを店頭で表示できます。オンラインで見た広告を店頭で再度目に触れさせることで、消費者は商品を思い出しやすくなります。さらに、デジタルサイネージを見たタイミングでアプリにクーポンを送信するといった連動施策も購買を後押しします。
また目立つ場所に商品を陳列するエンド棚の活用も有効です。店頭POPとデジタル広告のデザインを統一すれば、一貫したメッセージを届けることができます。オンラインとオフラインを連動させることで、相乗効果が生まれるでしょう。
STEP5. 効果測定を行い、PDCAを回し続ける
プロモーションを実施したら、必ず効果測定を行いましょう。
小売業者のデータを活用して、広告を見た消費者のうち何人が来店し、何人が商品を購入したかを分析します。
分析結果を基に仮説を立て改善策を実施し、再度効果を測定します。クリエイティブの変更や配信時間の調整、ターゲットの見直しなど、データに基づいた改善を繰り返しましょう。PDCAを回し続けることで、リテールメディアの効果を最大化できます。
リテールメディア活用時の注意点
リテールメディアを活用する際には、以下の3つに注意しましょう。
- 個人情報・プライバシーへの配慮
- データ連携・分析体制の構築
- 広告配信の過剰化の回避
適切な運用を行わなければ、顧客の信頼を失ったり、期待した効果が得られなかったりする恐れがあります。それぞれ詳しく解説します。
個人情報・プライバシーへの配慮
リテールメディアは顧客の購買データを活用するため、個人情報保護の観点からの配慮が不可欠です。
購買履歴や閲覧行動といったデータは個人のプライバシーに関わる情報です。個人情報保護法などの法令を遵守することはもちろん、高いレベルのセキュリティ対策が求められます。
対策として、データの利用目的を規約に明記し、情報の取り扱いやセキュリティについてわかりやすく説明することが大事です。顧客が安心してサービスを利用できる環境を整えることが、長期的な信頼関係の構築につながります。
データ連携・分析体制の構築
リテールメディアで成果を出すには、データ連携と分析体制の構築も不可欠です。
広告配信プラットフォームの導入や開発、データ分析基盤の整備、効果測定システムの構築など、技術面での投資が必要になります。購買データと広告配信データを連携させなければ、正確な効果測定ができません。
またデータ分析を行う専門チームの確保も重要です。広告効果をレポーティングし、改善策を提案できる体制を整えましょう。メーカーに対して広告枠を販売する営業チームの構築も必要になります。初期投資やリソース確保が求められるため、計画的に進める必要があります。
広告配信の過剰化の回避
収益を追求するあまり、広告を過剰に配信すると顧客体験を損なう恐れがあります。
広告だらけのECサイトや店舗では、消費者は情報量が多すぎて本当に欲しい情報を見つけにくくなります。結果として顧客離れを招き、ブランドイメージを損なうリスクもあります。
対策としては、広告の内容や表示方法を工夫し、消費者にとって心地よいバランスを保つようにしましょう。オウンドメディアやアーンドメディアと組み合わせて、押し付けがましくない情報発信を心がけることも有効です。適切な広告量を見極め、消費者満足度を維持しながら収益化を図ることが重要です。
▶︎あわせて読みたい:フリークエンシーとは?広告効果を高める最適頻度と設定方法
まとめ|リテールメディアで新たな販促機会を創出しよう
リテールメディアは、小売業者が購買データを活用して広告を配信する仕組みです。クッキー規制が強化される中、ファーストパーティデータを活用できるため価値が高まっています。
WalmartやAmazon、マツモトキヨシなどの成功事例が示すように、購買データを活用した広告展開により大きな成果を上げられます。
オンライン型、店舗・オフライン型、アプリ・CRM連携型、SNS・インフルエンサー連携型から目的に応じて選択し、ターゲット設定から効果測定まで計画的に進めましょう。リテールメディアを活用すれば、新たな販促機会を創出できます。
この記事の監修者:
宮崎桃(Meltwate Japanエンタープライズソリューションディレクター)
国際基督教大学卒。2016年よりMeltwater Japan株式会社にて新規営業を担当。 2020年よりエンタープライズソリューションディレクターとして大手企業向けのソリューションを提供。 ソーシャルメディアデータ活用による企業の課題解決・ブランディング支援の実績多数。 趣味は映画鑑賞、激辛グルメ、ゲーム
