デジタル化が進む現代において、顧客との接点が多様化し、マーケティング戦略の見直しが急務となっています。そんな中、OMOは顧客体験の質を高める戦略として注目されています。しかし、OMOが具体的にどのような戦略なのかわからない方もいるのではないでしょうか。
この記事では、OMOの基本的な意味やO2Oとの違い、導入によるメリット・デメリットまでを解説します。OMOを活用した具体的な施策や、国内外の成功事例についても詳しく紹介します。
OMOとは?主な特徴
OMO(Online Merges with Offline)とは、ECサイトやアプリのようなオンラインサービスと、実店舗やイベントのようなオフラインサービスを融合させ、顧客に一貫した購買体験を提供するマーケティング戦略のことです。
OMOを実践することで、顧客は店舗で商品を確認してECサイトで購入したり、アプリでたまったポイントを店舗で使ったりするといったことが可能になります。また、チャネル間の顧客行動データを統合し、パーソナライズされたサービスを展開するなど、ブランドとの接点を強化できるという点で企業側にもメリットがあります。
UX(ユーザー体験)を高めることを目的としているため、顧客視点が重視される点がOMOの特徴です。オンラインとオフラインの境界をなくすことで、より購買経路の選択肢が広がります。
O2Oとの違い
O2O(Online to Offline)は、オンライン上の情報を活用して、実店舗での購買へと誘導するマーケティング手法です。Web広告やSNS投稿、店舗で使えるクーポンのアプリでの発行などを通じて来店を促すなど、オフラインでの行動へ誘導することを最終目的としています。
一方、OMOはオンラインとオフラインのどちらかを主軸にするのではなく、両者を融合させてUXを向上させる点が大きく異なります。O2Oが送客中心の戦略であるのに対し、OMOは顧客との接点全体を設計し、データを活用して継続的な関係構築を目指すマーケティングアプローチです。OMOはO2Oを内包しているといえます。
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オムニチャネルとの違い
オムニチャネルは、店舗・ECサイト・SNS・カタログ・イベントなど複数のチャネルを統合的に運用し、顧客との接点を広げるマーケティング戦略です。オンラインとオフラインを分けずにシームレスなサービスを提供する点や、チャネル間の顧客データを統合して活用する点では、OMOと共通しています。
相違点は、OMOがオンラインとオフラインのつながりに焦点を当てているのに対し、オムニチャネルはオンラインどうしやオフラインどうしのチャネル間も含めて活用される点です。SNSからECサイト、イベントから店舗へと顧客を誘導することも可能になります。オムニチャネルは、OMOとO2Oを内包しているといえます。
また、オム二チャネルが「企業視点でチャネルごとの最適化と連携」を重視するのに対し、OMOは「顧客視点での体験全体の最適化」を目指すマーケティング手法となります。
OMOが注目されている理由3つ
OMOが現代のマーケティング戦略として注目される背景には、複数の要因が影響しています。ここでは、特に注目すべき3つの理由を解説します。
ECサイトなどのネット販売市場の拡大
スマートフォンの普及に伴い、ECサイトをはじめとするネット販売市場は急速に拡大してきました。2023年の国内BtoC-EC市場規模は24兆8,435億円に達し、前年比で2兆986億円の増加を記録しました。
ECサイトと従来からある実店舗という2大販売チャネルは、OMO戦略における顧客データの収集・分析環境を整える土台となっており、オンラインとオフラインを連携させた体験設計の重要性をさらに高めています。
参考:経済産業省 令和5年度 電子商取引に関する市場調査報告書
CX(顧客体験)の重要性の高まり
CX(顧客体験)とは、商品やサービスの認知から購入、アフターサポートまでを含む一連の体験を指します。現代の消費者は「何を買うか」だけでなく、「購入プロセスでどんな価値を得られるか」に注目する傾向が強まっています。たとえば、スムーズな決済や丁寧なサポート対応は、満足度を左右する重要な要素です。
こうした背景から、オンラインとオフラインを連携させた統合的な体験設計が求められています。OMO戦略は、両チャネルのデータを活用し、個々のニーズに応じたサービス提供を可能にすることで、CXの質を高める有効なアプローチとなっています。
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AIやIoT技術の発展
AI(人工知能)やIoT(モノのインターネット化)といった先端技術の進化も、OMOの推進を後押ししています。これらの技術は、顧客の行動データをリアルタイムで取得・分析し、最適なタイミングで情報やサービスを提供することを可能にしました。より詳細なデータを取得するには、オンラインとオフラインの情報を統合することが必要です。
また、情報の統合は、ポイントやクーポンが店舗でもECサイトでも使えることを可能にし、顧客の体験価値を向上させる手段にもなっています。AIやIoTの活用により、OMOの導入効果を高めています。
OMOのメリット
OMOを導入することで、企業は顧客により高い価値を提供できるだけでなく、自社にも多くのメリットをもたらします。ここでは、OMOがもたらす代表的なメリットを3つに分けて解説します。
顧客体験を向上できる
OMOの最大の強みは、顧客一人ひとりに合わせた体験を設計できる点にあります。商品やサービスの差別化が難しくなる中、「どのようなプロセスで購入に至るか」が選定の重要な要素となっています。
そのためには、、顧客の行動や嗜好を深く理解し、オンラインとオフラインの情報を統合したデータ活用が不可欠です。蓄積されたデータをもとに、パーソナライズされたUX(ユーザー体験)を提供することで、満足度を高めることができます。
結果として、顧客との関係性が深まり、LTV(生涯価値)の向上にもつながります。企業にとっては、安定した収益基盤の構築と、ブランドロイヤルティの強化という両面でメリットを享受できる戦略です。
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データ活用でより正確にニーズを理解できる
オンラインとオフラインの両方から得られる顧客データを一元管理することで、より精度の高いマーケティングが可能になります。個人単位のIDに紐づいた検索履歴や購買行動、決済情報などを活用することで、顧客のニーズをより深く理解することが可能です。
これにより、商品提案や販促施策の精度が向上し、無駄な広告費の削減にもつながります。企業は、顧客との関係性を強化しながら、他社との差別化を図ることができるため、競争力のあるマーケティング基盤を構築できます。
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ブランド価値を高められる
OMOによる一貫した顧客体験の提供は、ブランド価値の向上に直結します。オンラインとオフラインで統一されたメッセージやサービス品質を保つことで、顧客は「自分を理解してくれるサービスである」と感じ、信頼感が高まるでしょう。
このような積極的なブランド認識は、価格競争に巻き込まれにくいプレミアムポジションの確立につながります。さらに、満足度の高い顧客がSNSや口コミで情報を拡散することで、新規顧客の獲得にも貢献します。
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OMOのデメリットと注意点
OMOは多くのメリットを持つ一方で、導入や運用には課題も存在します。ここでは、OMOを検討する際に理解しておくべき代表的なデメリットや導入上の注意点を3つに分けて解説します。
長期的に運用を継続する必要がある
OMOは、短期的な売上アップを狙う施策ではなく、継続的な取り組みが求められる戦略です。顧客データの収集・分析、UXの設計、パーソナライズされたサービス提供など、段階的な改善を重ねることで成果が見えてきます。また、初期投資に加え、運用には人的リソースや技術的な対応も必要です。そのため、短期的な売上増加を期待するのは現実的ではありません。
OMOの本質は、顧客との関係性を深め、ブランドのファンを育てることにあります。導入にあたっては、長期的な視野での計画立案と、持続可能な運用体制の構築が不可欠です。
ビジネスモデルによって効果が異なる
OMOは、オンラインとオフラインの両チャネルを活用することで、顧客体験を高める施策です。しかし、オンラインに特化したサービスなど顧客接点が限られる場合はチャネル自体が少ないため、チャネル間連携の効果を得にくいケースもあります。
また、BtoB・高額商品のように購買サイクルが長い業界では、継続的な接点の創出が課題となることもあるでしょう。OMOを導入する際は、自社のビジネスモデルや顧客接点の特性を踏まえたうえで、戦略的に判断することが重要です。
データベースの構築・社内体制の整備が必要
OMOを実現するには、オンラインとオフラインで得られる顧客データを一元管理できるデータベースの構築が不可欠です。既存システムとの連携や、クラウドストレージの導入、データ連携ツールの選定など、技術的な準備が求められます。
また、データを活用するには、分析スキルを持つ人材の育成や、販売スタッフのオペレーション変更など、社内体制の整備も必要です。これらの準備には時間とコストがかかるため、導入前にリソースの確保と社内の理解を得ておくことが成功の鍵となります。
OMO施策の具体例4つ
OMOを実現するには、オンラインとオフラインをつなぐ具体的な施策が欠かせません。ここでは、代表的な4つの施策について解説します。
モバイルオーダー
モバイルオーダーは、来店前や来店中に顧客がスマートフォンから商品を注文できる仕組みです。自宅や移動中に商品を選び、指定時間に店舗で受け取るだけで購入が完了するため、レジ待ちのストレスを軽減し、利便性が大きく向上します。
企業側にとってもメリットは大きく、注文された商品を計画的に準備することができます。また、注文時の情報を顧客IDと紐づけることで、来店頻度や購入傾向の把握が可能です。これにより、パーソナライズされた提案やクーポン配信など、マーケティング施策の精度を高めることができます。
現在では主に飲食店で導入が進んでおり、顧客満足度の向上と業務効率化の両面で効果を発揮する施策として注目されています。
チャットボット
チャットボットは、顧客からの問い合わせに自動で応答するシステムです。店舗で活用することで、顧客の在庫や商品情報などに関する質問にスタッフの代わりに自動的に応えます。OMO施策としては、ECサイトとのデータ連携による商品提案が可能になります。
また、顧客の質問内容や関心事項がデータとして蓄積されるため、商品開発やサービス改善のヒントとしても活用可能です。企業側の人的リソースを削減しながら効率的な接客を行える点が大きな利点です。
デジタルサイネージ
デジタルサイネージは、店舗や施設内のディスプレイを使って情報を発信する仕組みです。紙媒体と異なり、リアルタイムでの更新や時間帯・季節に応じた動的なコンテンツ配信が可能です。
OMOでは、QRコードによるEC導線やセール情報の表示が一般的で、AIカメラと連携すれば顧客属性に応じたコンテンツの自動表示も可能です。これにより、パーソナライズされた情報提供が実現し、来店体験を起点にオンラインへ誘導することで、購買意欲の喚起とデータ収集に貢献します。
ポイント・クーポンの配布
ポイントやクーポンの配布は、オンラインとオフラインの垣根をなくすOMO施策のひとつです。アプリを通じて、実店舗でもECサイトでも同じポイントが貯まり、相互利用が可能になります。レシート撮影によるポイント付与や、位置情報と連動した来店時の自動クーポン配信などもあります。
購買データを包括的に収集し、個人の傾向に応じた提案が可能になります。結果として、顧客の継続利用と企業の収益向上を両立でき、長期的な関係構築に貢献します。
OMO戦略を成功させるポイント
OMO戦略を実行に移す際は、単なるチャネル統合にとどまらず、顧客体験の設計や接点の拡張、データ活用など、具体的なアクションが求められます。ここでは、戦略の実効性を高めるための視点と実践例に焦点を当てて解説します。
顧客目線での顧客体験の設計
OMO戦略の核となるのは、顧客目線で顧客体験を設計することです。購入前から購入後までの一連の流れをスムーズに構築することで、顧客満足度を高めることができます。
ECサイトで閲覧した商品を実店舗で確認・受け取れる仕組みや、来店履歴に応じてパーソナライズされたクーポンを配信するなど、顧客の行動に寄り添った設計が重要です。こうした体験が一貫して提供されることで、ブランドへの信頼が高まり、継続的な関係構築にもつながります。
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顧客接点の拡大
OMO戦略を成功させるには、SNS・アプリ・メール・店舗イベントなど、多様なタッチポイントを効果的に設計することが重要です。接点を広げることで、顧客は購買にいたるまでの経路に選択肢が増え、より利便性が高まります。
大切なのは、各接点の役割と、顧客がそこに期待する体験を正しく捉えることです。数を増やすだけでなく、チャネル間をいかにスムーズに連携するかがOMOの成果を左右します。
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データベースの統合と有効活用
OMO戦略を成功させるには、オンラインとオフラインの顧客データを一元管理する統合データベースの構築が欠かせません。購買履歴や店舗利用状況などを横断的に集約することで、分析精度が向上し、パーソナライズ施策の実行が可能になります。
例えば、ECサイトの閲覧履歴と店舗での購入履歴を紐づけることで、嗜好に応じた商品提案やクーポン配信が実現できます。顧客体験の質が高まり、LTV(顧客生涯価値)の向上にもつながります。顧客行動を包括的に捉える設計と、得られた情報の戦略的な活用が、競争優位の確立に寄与します。
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OMOの国内・海外の成功事例【業界別】
OMOは世界中で導入が進んでおり、各国の企業がそれぞれの業界特性に合わせた工夫で成果を上げています。業界別にどのような戦略が展開されているのか、具体的な事例を見ていきましょう。
国内の成功事例
国内企業でもOMO戦略の導入が本格化しており、各業界で独自のアプローチによる顧客体験向上が実現されています。
アパレル業界:ユニクロ
ユニクロのOMOの代表例が「オンライン在庫確認」と「店舗受け取り」の仕組みです。顧客はアプリやウェブサイトで欲しい商品の在庫を確認し、最寄りの店舗で即日受け取ることができます。これにより、商品を探す負担を減らし、買い物の効率を大幅に向上させました。
また、店舗を訪れた際には他の商品との出会いも生まれるため、追加購入の機会も広がります。利便性と販売機会の両立を実現した点が、ユニクロがOMOで成果を挙げている大きな理由といえるでしょう。
飲料食品業界:サントリー
サントリーは、LINEを活用した「TOUCH-AND-GO COFFEE」でOMOを推進しています。顧客はスマホで480種類以上のパッケージと120種類のコーヒーフレーバーからオリジナルのコーヒーを注文できます。受け取りは店頭で素早く完了するため、待ち時間はありません。
モバイルを起点としたカスタマイズ性の高い体験は、忙しい現代人のライフスタイルにマッチし、リピーターを増やす効果もあります。パーソナライズされた商品と効率的な受け取り体験が実現されたモデルとして注目されています。
海外の成功事例
海外ではOMO戦略が先進的に展開されており、業界ごとに異なる形で成果を上げています。ここでは、小売・金融保険・飲食の3業界における代表的な成功事例を紹介します。
金融保険業界:中国・平安保険グループ
平安保険グループは、ユーザーごとの詳細な個票データを活用して、きめ細やかなサービスを展開しています。アプリでは医療機関の検索から予約まで可能で、保険契約者以外も利用できる利便性が支持されています。
さらに、データ分析で得た情報を営業担当者が対面サービスに活かし、リアルな接点を通じて信頼を深めています。オンラインのデータ活用とオフラインの接客を融合させた戦略により、同社は金融業界におけるOMO成功例の代表となりました。
飲食業界:中国・Luckin Coffee
Luckin Coffeeは、完全キャッシュレスとスマホ注文によるセルフピックアップ・デリバリー対応が特徴の中国のコーヒーチェーンです。長時間の待ち時間を避けたい中国の消費者ニーズに合致し、急速に市場を拡大しています。
さらに、WeChat(中国で使われる多機能メッセージアプリ)のミニプログラムを活用することで近隣の店舗を表示できるほか、データベースを活用した効率的なプロモーションを展開しています。OMOによる利便性とデジタル起点のマーケティング戦略の融合により、飲食業界における新しい成功モデルとなりました。
まとめ:OMO戦略でよりよい顧客体験を提供しよう
OMO(Online Merges with Offline)は、オンラインとオフラインを融合させ、顧客一人ひとりに合わせたシームレスな体験を実現する戦略です。データ活用によって購買行動を深く理解し、最適なタイミングとチャネルでアプローチすることで、満足度やロイヤリティの向上が期待できます。
OMOは単なる販売促進ではなく、顧客との長期的な関係性を築くための基盤です。接点の設計、体験価値の向上、LTVの最大化など、企業の持続的成長に直結する要素が詰まっています。
自社のビジネスモデルとの相性や運用体制を見極めながら、継続的な改善と柔軟な対応を前提に戦略を構築していきましょう。
この記事の監修者:
宮崎桃(Meltwate Japanエンタープライズソリューションディレクター)
国際基督教大学卒。2016年よりMeltwater Japan株式会社にて新規営業を担当。 2020年よりエンタープライズソリューションディレクターとして大手企業向けのソリューションを提供。 ソーシャルメディアデータ活用による企業の課題解決・ブランディング支援の実績多数。 趣味は映画鑑賞、激辛グルメ、ゲーム