O2O(Online to Offline)は、デジタル技術の進展に伴い、オンラインからオフラインへの誘導を図るマーケティング手法として注目されています。Web上の行動を起点に、実店舗への集客や購買につなげることができます。
しかし、「O2O」という言葉を聞いたことはあっても、具体的な意味や導入方法まで理解している方は少ないかもしれません。
この記事では、O2Oの基本的な意味やから、OMOやオムニチャネルとの違い、導入の背景とメリット、さらに実践的な施策や成功事例までを体系的に解説していきます。
O2Oとは?
O2Oが重要視される背景
O2Oマーケティングのメリット
O2Oマーケティングの具体例6つ
O2Oマーケティング成功のポイント
O2Oの成功事例【業界別】
まとめ|O2O戦略で効果的なマーケティング施策を
O2Oとは?
O2O(Online to Offline)は、Web上の接点を活用して、顧客を実店舗へと誘導するマーケティング施策です。オンラインでの情報提供やキャンペーンを通じて、来店での購買といったオフラインでのアクションを促します。
代表的な例として、企業の公式サイトやSNSで実店舗限定のクーポンを配布したり、スマートフォンアプリで商品情報を提供したりして、実店舗での購入につなげる施策があります。
もともと、店舗で商品を見たあとに、より安く売られているECサイトで買う「ショールーミング」の対策として注目されましたが、現在は新規顧客獲得の施策として広く利用されています。
O2Oとあわせて理解しておきたい関連用語
O2Oを正しく理解するには、関連するマーケティング用語を押さえておくことも重要です。混同しやすい考え方の違いを整理し、それぞれの特徴を解説します。
OMO
OMO(Online Merges with Offline)は、オンラインとオフラインを分離せず、統合された一つの顧客体験として設計するマーケティング戦略です。O2Oが「オンラインからオフライン」への誘導に主眼を置いているのに対し、OMOでは、「オンラインからオフライン」だけでなく「オフラインからオンライン」でも購買体験が得られるように設計されます。
例えば、店舗にあるQRコードからスマートフォンで購入したり、ネットで注文した商品を店舗で受け取ったりするといった柔軟な購買体験を提供するような仕組みが該当します。オンラインとオフラインの垣根をなくすことで、顧客の利便性と満足度を高めることを目的としています。
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逆O2O
O2Oが「オンラインからオフライン」であるのに対し、逆O2Oは「オフラインからオンライン」へ顧客を誘導するマーケティング手法です。店頭での体験を起点にECサイトなどへ誘導します。
店舗に設置されたQRコードを顧客にスキャンしてもらい、オンラインストアへ誘導する方法が代表例です。実店舗での接点を活かし、オンラインでの購買につなげることで、顧客の利便性を高めながら売上拡大を図る施策として注目されています。
マルチチャネル
マルチチャネルは、企業が複数の販売・接客チャネルを持ち、それぞれを独立して運営する方法です。店舗、ECサイト、電話、アプリ、メール、SNSなどの各チャネルごとに別々の部署が担当し、在庫管理や顧客対応が分けられています。
O2Oとの主な違いは、チャネル間の連携がない点にあります。O2Oが「オンラインからオフライン」への誘導のために商品情報やクーポンが連携されているのに対し、マルチチャネルは複数のチャネルをそれぞれ独立して展開する仕組みです。
顧客に多様な入り口を提供できる点が強みですが、チャネル間の連携がないため利便性には課題が残ります。
オムニチャネル
オムニチャネルとは、企業が持つすべてのチャネルを連携させ、顧客に一貫した購買体験を提供するマーケティング手法です。店舗、ECサイト、電話、アプリ、メール、SNSなどのデータを統合し、どのチャネルからも他のチャネルでの顧客体験が活かされたサービスが提供できます。
ネットで注文した商品を店舗で受け取ったり、店舗で見た商品をアプリで購入したりといった点では、OMOと共通しています。オムニチャネルはこれに加えて、「オンラインからオンライン」や「オフラインからオフライン」もつながっているのが特徴です。SNSで商品を宣伝してECサイトに誘導したり、イベントから店舗に誘導したりといったことも可能になります。
O2Oがオンラインから実店舗への誘導を目的としているのに対し、オムニチャネルは複数のチャネル間の境界をなくすことで、企業目線で施策を展開しやすくする点が特徴です。
O2Oが重要視される背景
オンラインとオフラインの購買活動は密接に結びついており、切り離せない関係にあります。テクノロジーの進化とともに、消費者の行動様式も大きく変化しており、こうした流れがO2Oへの関心を高める背景となっています。
スマートフォンの浸透
スマートフォンの普及により、消費者は店舗に足を運ばなくても、商品の購入をオンライン上で完結できるようになりました。レビューや比較情報も確認できるため、店舗に訪れる必要性が薄れつつありますが、実店舗は経営コストがかかるため、企業側としては集客が必要です。来店を促す施策として、O2O戦略が注目されています。
SNSでの情報発信・拡散の一般化
SNSの利用が一般化し、情報の拡散力が飛躍的に高まっています。Meltwaterの調査によると、世界中のインターネットユーザーの約51%が購入前にブランドやサービスを調べています。利用媒体は、多い順で検索エンジン・SNS・カスタマーレビューです。特にSNSやカスタマーレビューは、リアルな口コミや体験談の重要性がうかがえます。
参考:2024年 業界別インサイトレポート:小売業界|Meltwater
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実店舗での体験が再評価されていること
ECサイトの成長によりオンラインでの購買が増えている一方で、実店舗でのCX(顧客体験価値)が再評価されています。試着や試用、スタッフとの対話など、店舗ならではの体験はオンラインでは代替しづらく、購買の決め手になることもあります。
重要なのは、オンラインとオフラインのどちらかに偏るのではなく、両者を組み合わせて相乗効果を生み出すことです。O2Oはその橋渡しとなる施策として、実店舗の価値を高める役割を担っています。
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O2Oマーケティングのメリット
O2O戦略を導入することで、企業は多くの利点を得られます。オンラインとオフラインの融合により、従来の単一チャネル運営では実現困難だった効果を期待できるでしょう。
新規顧客の獲得が見込める
実店舗だけでの集客には限界がありますが、オンラインを活用することで、より広範な層へのアプローチが可能です。WebサイトやSNSを通じて認知度を高め、店舗限定のクーポンなどを配信することで、来店の動機づけができます。O2Oは、認知から来店までの導線をスムーズに設計できる点が強みです。
顧客ニーズに合った施策を打てる
O2Oマーケティングでは、ユーザーの属性や行動履歴をもとに、ニーズに合った施策を展開できます。Webサイトの閲覧履歴やSNSでの反応などから得られるデータを活用すれば、個々の関心に合わせた情報発信が可能になります。
例えば、過去の購入履歴から嗜好を分析し、興味を持ちそうな商品のクーポンを配信する施策が挙げられます。また、位置情報を活用して店舗近くにいる顧客だけに限定オファーを送ることも可能です。
このような精度の高いターゲティングにより、顧客満足度の向上とマーケティング予算の効率化を両立できます。従来の一律的な広告手法と比べて、顧客一人ひとりに最適化されたアプローチといえるでしょう。
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リピーターの増加が期待できる
O2O施策は、既存顧客の再来店を促す手段としても有効です。実店舗で購入した顧客に対して、アプリやメールで新商品のお知らせや、リピーター限定の店舗でのポイント付与などを配信すれば、再訪のきっかけになります。また、体験コーナーなど店舗でしか味わえないサービスを定期的に開催しオンラインで発信することで、継続的な来店につなげることができます。
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即効性があり効果測定がしやすい
即効性と効果測定のしやすさも、O2Oマーケティングの大きな強みです。例えば、期限付きクーポンをオンラインで配布すると、短期間で来店や購買を促せます。さらに、クーポン利用数やSNSでの反応などは数値で取得できるため、施策の効果を把握しやすいのも特徴です。
得られたデータを分析して改善を重ねれば、より効果的な施策へとつなげられます。成果が見える分、社内での説明や予算確保もしやすく、コスト面でも優れた取り組みといえるでしょう。
O2Oマーケティングの具体例6つ
O2Oマーケティングは実店舗とオンラインを結びつける多様な施策があります。ここでは、実際に活用されている代表的な施策を6つ紹介します。自社の状況に合わせて取り入れることで、集客や売上の向上につながるでしょう。
ECサイトとの連携
実店舗とECサイトの連携強化により、顧客により便利で一貫した購買体験を提供できます。具体的な施策として、ECサイトで注文した商品を実店舗で受け取れるサービスや、ECサイトでのポイントを実店舗でも使えるようにするといった施策が挙げられます。顧客は自分のライフスタイルに合わせて最適な購入方法を選択でき、企業側も販売機会を最大化できます。
SNSでの情報発信
SNSは幅広い世代に情報収集の手段として日常的に利用されているため、広告の役割を持ちます。新商品の情報や店舗の雰囲気、質問への丁寧な回答、キャンペーン告知などを発信すると来店を促すのに効果的です。世代ごとに利用されているSNSは異なるため、InstagramやX(Twitter)などターゲットに合わせて選ぶことがポイントです。さらに、「いいね」やコメントなどを通じて顧客とコミュニケーションを取ることで、信頼関係を築くことも可能です。
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クーポンの配布
実店舗で使えるクーポンをオンライン上で配信する施策は、O2Oマーケティングの中でも特に活用されている手法のひとつです。メールマガジンや公式アプリ、SNSなど複数のチャネルを通じて、ターゲットに応じた内容を届けることが可能です。「期間限定」や「来店者限定」といった条件を加えることで、来店を促す効果が高まります。
さらに、オンラインで発行したクーポンは利用状況の把握が容易であり、施策の成果を定量的に評価しやすい点も利点です。店舗側にとっては再来店の促進に加え、購買データをもとに次回施策の精度を高めることにもつながります。
位置情報の活用
スマートフォンの位置情報を活用することで、実店舗周辺にいる顧客へ効果的に情報を届けられます。例えば、近隣にいる顧客にセールや割引情報をプッシュ通知すれば、店舗へ足を運んでもらえる可能性が高まります。また、来店するだけでポイントが貯まる仕組みを導入すれば、ちょっとした寄り道感覚で利用してもらえるきっかけになるでしょう。位置情報を活用した施策は、広告費をかけずに来店を促す手段として効果的です。
公式アプリ
公式アプリを導入することで、O2Oマーケティングの効果を一段と高めることが可能です。紙のポイントカードは紛失や管理の煩雑さが課題となりがちですが、スマートフォン上で一括管理できるアプリなら、顧客の利便性が大きく向上します。
加えて、プッシュ通知を活用すれば、新商品やセール情報をタイムリーに届けることができます。メールと比べて開封率が高い傾向があるため、実店舗での購買行動につながりやすい点も見逃せません。
さらに、アプリに会員証や購入履歴の管理機能を組み込むことで、蓄積されたデータをもとに個別最適化された施策を展開できます。利便性とデータ活用の両立が可能となり、継続的な関係構築ができるでしょう。
QRコードの活用
QRコードを活用することで、実店舗での会員登録やLINEの友達追加などをスムーズに行えます。顧客はスマートフォンでコードを読み取るだけで登録できるため、手間がかからず導入のハードルも低くなります。
登録後は、新商品の情報やクーポンをオンラインで配信できるようになり、次回の来店につなげる施策として機能します。さらに、QRコードは紙媒体の広告や店内POPなど、さまざまな場所に設置できるため、低コストで広範囲に展開できる点も魅力です。
新規顧客との接点を増やすだけでなく、継続的な情報提供によってリピーターの育成にもつながるため、O2O施策の中でも汎用性の高い手法といえるでしょう。
O2Oマーケティング成功のポイント
O2Oを効果的に活用するには、顧客にとって魅力的で価値のある体験を創出し、自社ならではの強みを活かした施策を設計することが成功への重要な鍵となります。
ニーズに合ったCX(顧客体験)の創出
O2O施策を展開する上で、顧客のニーズに寄り添ったCXの設計は欠かせません。来店そのものが価値ある体験となるよう、店舗限定のサービスやイベント、購入後の特典などを組み合わせた施策が求められます。
その実現には、アンケートやインタビューを通じて顧客の声を収集し、期待を上回る体験を構築する姿勢が重要です。小さな「うれしい驚き」の積み重ねが、満足度の高いCXを生み出し、リピーターの獲得やファン化へとつながっていきます。
自社の強みに合った施策の設計
O2O施策を設計する際は、他社の成功事例を模倣するのではなく、自社の強みを最大限に生かすことが重要です。
例えば、オーダーメイド家具を販売する企業であれば、製作過程や素材選びのこだわりを動画で発信し、店舗での相談や試座体験へと誘導する流れが効果的です。
自社ならではの魅力をオンラインで伝え、オフラインで実際に体験してもらうことで、顧客満足度の向上と来店促進の両立が可能になります。O2O施策は、単なる販促ではなく、ブランド体験の設計と捉えるべきでしょう。
O2Oの成功事例【業界別】
O2O施策は、業界や企業の特性に応じてさまざまな形で展開されています。ここでは、小売・アパレル・飲食の3業界における代表的な成功事例を紹介し、実践的なヒントを探っていきます。
小売業界:ニトリ
家具を販売するニトリでは、O2O施策を積極的に推進しています。2019年には公式アプリを刷新し、インターネット上で検索した商品が店内のどこにあるか表示する「カメラdeサーチ」を導入しました。店舗への誘導だけでなく、店舗に着いてから希望の商品への誘導を可能にし、購入につなげています。
アパレル業界:ユニクロ
ユニクロでは、モバイル会員向けにクーポンを配信し、実店舗での利用を促すO2O施策を展開しています。店舗で商品を購入する際にオンライン上の会員ページのクーポンを提示することで、利用できます。また、購入額1,000円ごとに抽選が行われる「SCAN DE CHANCE クーポン」もあり、当たれば店舗で使えるクーポン券がもらえます。ただクーポンを提供するのではなく、ワクワク感もあるのが特徴です。
飲食業界:井筒まい泉株式会社
サントリー系列の「とんかつまい泉」では、UGC(ユーザー生成コンテンツ)を活用したO2O施策が注目されています。Instagram上の魅力的な投稿を自社サイトにフィードし、ブランドの魅力を発信しています。また、Twitter(現X)では「カキが苦手なうちの子が、まい泉のカキフライをおいしく食べた」というツイートが拡散した結果、カキフライが季節商品の売上1位となった事例もあります。リアルタイムでの顧客の声が来店を促した事例です。
▶︎Meltwaterのお客さま事例:井筒まい泉株式会社の事例をもっと詳しく
まとめ|O2O戦略で効果的なマーケティング施策を
O2O(Online to Offline)は、オンライン施策を通じて実店舗への来店を促すマーケティング手法です。スマートフォンやSNSの普及、CX(顧客体験価値)の重視といった環境の変化により、その重要性はますます高まっています。
ECサイトや公式アプリ、位置情報、QRコードなどのデジタルツールを活用することで、顧客との接点を広げながら、来店促進やリピーターの獲得につなげることが可能です。
成功の鍵は、自社の強みを軸にした施策設計と、顧客視点に立った体験の創出にあります。オンラインからオフラインへ誘導することによって、顧客との継続的な関係構築とブランド価値の向上が期待できるでしょう。
この記事の監修者:
宮崎桃(Meltwate Japanエンタープライズソリューションディレクター)
国際基督教大学卒。2016年よりMeltwater Japan株式会社にて新規営業を担当。 2020年よりエンタープライズソリューションディレクターとして大手企業向けのソリューションを提供。 ソーシャルメディアデータ活用による企業の課題解決・ブランディング支援の実績多数。 趣味は映画鑑賞、激辛グルメ、ゲーム