新規顧客の獲得に注力する一方で、既存顧客へのアプローチが後回しになっていないでしょうか。安定した収益を実現するためには、既存顧客との継続的な関係を築くことが重要な鍵となります。
そこで注目されているのが「リテンションマーケティング」です。これは、顧客の継続利用や再購入を促すことを目的としたマーケティング手法で、長期的な信頼関係の構築を重視します。
この記事では、リテンションマーケティングの概要や重要性、導入によるメリットを解説するとともに、SNSやメールなどの具体的な施策や成功事例も紹介します。
リテンションマーケティングとは?
リテンションマーケティングの重要性
リテンションマーケティングのメリット4つ
リテンションマーケティングの具体的な手法
リテンションマーケティングを成功に導くポイント
リテンションマーケティングの成功事例
まとめ|リテンションマーケティングで顧客関係を強化
リテンションマーケティングとは?
リテンションマーケティングとは、既存顧客との関係を継続的に築き、再購入や利用継続を促すマーケティングのことです。単発的な売上や新規顧客を狙うのではなく、既存顧客との接点を長期的に設けることで、ブランドへの愛着やロイヤルティを育てます。
具体的なマーケティング戦略としては、SNSで情報を発信し続けたり、会員特典を設けたり、カスタマーサポートを充実させたりする方法があります。競合への乗り換えを防ぎ、商品・サービス利用のリピートを促すことで、。企業の持続的な成長につながります。
リテンションマーケティングは、単なる販促活動ではなく、顧客との信頼を積み重ねる「関係性のマネジメント」として位置づけられ、競争優位性の確立にも寄与します。
リテンションマーケティングの重要性
リテンションマーケティングが重要視される背景には、既存顧客と関係を維持したほうが新規顧客を獲得するよりもコストが抑えられることにあります。
市場には限られた数の新規顧客しか存在せず、獲得競争も激化しているため、既存顧客との関係を深める方が効率的です。既存顧客はすでに商品やサービスを知っているため、ブランド認知のマーケティングをイチから行う必要はありません。顧客満足度を高めるほうに注力することで、再購入や追加サービスの利用につながり、企業にとって安定した収益源となります。
リテンションマーケティングは、コストを抑え、売上を安定化させる重要な役割を果たすといえるでしょう。
リテンションマーケティングのメリット4つ
リテンションマーケティングには、企業の安定的な成長を支える多くの利点があります。ここでは、特に重要なポイントに注目し、それぞれの具体的な内容を解説します。
既存顧客のLTV向上につながる
LTV(Life Time Value)とは、顧客が生涯を通じて企業にもたらす利益のことで、「顧客生涯価値」とも呼ばれます。リテンションマーケティングでリピート購入を増やすことで、LTVを高めることが可能になります。LTVを最大化する方法には、クロスセル(関連商品の提案)やアップセル(より高価格な商品の提案)、カスタマーサポートの充実や継続利用を促す仕組み作りなどがあります。
新規顧客の獲得よりも費用対効果が高い
リテンションマーケティングは、新規顧客の獲得に比べて費用対効果が高い点でも注目されています。マーケティング分野では「1:5の法則」と呼ばれる考えがあり、既存顧客を維持するのにかかるコストは、新規顧客獲得の5分の1といわれます。既存顧客への施策は商品・サービスの認知活動を省くことができるため、ROI(投資対効果)を高めることができ、安定的な収益を生み出せるのです。
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休眠顧客にアプローチできる
休眠顧客とは、商品・サービスの利用履歴があるものの現在は利用していない顧客のことです。リテンションマーケティングは再購入を促すマーケティングのため、休眠顧客を再びアクティブ化する手段としても有効です。MAツールなどを活用すれば、一定期間ログインや購入がない顧客を抽出し、限定クーポンやステップメールで再アプローチすることが可能です。過去に関心を持っていた顧客だからこそ、適切な価値提供ができれば再購入や継続利用につながり、優良顧客になることも期待できます。
口コミにより新規顧客の獲得につながる
リテンションマーケティングは、顧客のブランドへの信頼や愛着を高める施策です。ロイヤルティの高い顧客は、商品やサービスを周囲に紹介する傾向があり、口コミによる新規顧客の獲得にも貢献します。SNSで発信されれば、情報がより拡散し、多くの顧客にリーチできるでしょう。
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リテンションマーケティングの具体的な手法
リテンションマーケティングには、目的やアプローチ方法によってさまざまな手法があります。「コミュニケーション型」「ロイヤルティ向上型」「売上最大化型」「サポート型」の手法を解説します。
| カテゴリ名 | 主な施策 | 目的・特徴 |
|---|---|---|
| コミュニケーション型 | ・SNSマーケティング ・メールマーケティング ・プッシュ通知 ・オフラインイベント | 継続的な情報発信で関係性を維持・強化/td> |
| ロイヤルティ向上型 | ・ポイントシステム ・会員プログラム | 利用頻度に応じた特別なサービスの提供による愛着度の向上 |
| 売上最大化型 | ・レコメンド ・リテンション広告 | 商品・サービスの新たな発見による購買単価や頻度の向上 |
| サポート型 | ・カスタマーサポート ・カスタマーサクセス | 顧客の不安や疑問点の解消による解約防止 |
コミュニケーション型の手法
顧客との関係を維持するには、継続的な接点づくりが重要です。コミュニケーション型の手法は、SNSやメールなどのやりとりにより、顧客に商品やサービスを身近に感じてもらうことが目的です。
SNSマーケティング
SNSは、顧客との距離を縮める有効なリテンションマーケティングの一つです。X(Twitter)やInstagramなどを活用し、商品情報やサポート内容を日常的に発信することで、顧客の関心を維持し、ブランドへの信頼を深めることができます。SNS限定のキャンペーンも、顧客とのつながりが強まる方法でしょう。投稿へのコメント対応など、双方向のコミュニケーションを取ることもブランドへの親近感を生むのに効果的です。
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メールマーケティング
メールマーケティングは、既存顧客への情報提供や再購入の促進に効果的な手法です。新商品やキャンペーンの案内、会員限定クーポンなどを配信することで、購買意欲を高められます。活用事例も商品の理解が深まり、購入につながることがあります。購入履歴や閲覧データを活用したパーソナライズ配信により、顧客の関心に合った情報を届けることが可能です。
プッシュ通知の活用
プッシュ通知は、スマートフォンのアプリにメッセージが来たときに知らせる機能です。ロック画面上に表示されるためユーザーの目につきやすく、メールよりも開封率が高いのが特徴です。クーポンやキャンペーン情報などを通知でき、休眠顧客への再アプローチにも活用できます。
ただし、頻繁な通知はユーザーの不快感を招く可能性があるため、配信タイミングや頻度には注意が必要です。また、通知がユーザーによってオフに設定されている場合は、活用できません。
オフラインイベントの開催
オンライン施策が主流となる中でも、オフラインイベントは顧客との信頼関係を深める有効な手法です。交流会や体験会、ワークショップなどを通じて、顧客の生の声を直接聞ける貴重な機会となり、サービス改善や新たなニーズの発見にもつながるでしょう。
また、参加者同士が情報交換や課題共有を行うことでブランドへの愛着が高まり、イベント後にSNSで感想を発信してもらえば新規顧客への波及効果も期待できます。リアルな体験価値を提供することで、顧客ロイヤルティの向上と長期的な関係構築が可能です。
ロイヤルティ向上型の手法
ロイヤルティとは、商品やサービスに対する顧客の愛着のことです。ロイヤルティ向上を促すには、顧客が「また利用したい」と感じる仕組みづくりが重要です。
ポイントシステム・会員プログラム
ポイントシステムや会員プログラムは、顧客の継続利用を促す代表的な手法です。購入金額に応じてポイントが貯まったり、割引や特典が得られたりする仕組みは、再購入の動機づけとして広く活用されています。
さらに、会員ランク制度を導入することで、利用頻度や金額に応じた特典提供が可能となります。上位会員には限定商品の先行案内や誕生日クーポンなど、特別感のあるサービスを提供することで、長期的な利用がプラスになることを体感してもらえるでしょう。
売上最大化型の手法
売上の最大化を目指すには、顧客の嗜好や行動履歴に基づいたパーソナライズが重要です。個別のニーズに応じた提案を行うことで、購入意欲や利用頻度を高めることができます。
レコメンド
レコメンド機能は、顧客の行動履歴や購入履歴に基づいて、最適な商品やサービスを提案する手法です。パーソナライズされたおすすめは、顧客体験を高め、リピート購入を促進します。また、「この商品を購入した人は、こちらも購入しています」といった表示により、クロスセル(関連商品の提案)やアップセル(より高価格な商品の提案)につながります。
マッキンゼーの調査(2021年)によると、71%の消費者がパーソナライズサービスを期待しており、一般的な情報よりも個人の関心やニーズに沿った内容が求められています。リテンションマーケティングにおいても、関連性の高い情報を適切なタイミングで提示することで、再購入やアップセルにつながり、LTVの向上に寄与します。
参考:Meltwater 大規模なパーソナライゼーション戦略 KKD(経験・勘・度胸) に頼らない消費者調査
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リテンション広告
リテンション広告とは、既存顧客や休眠顧客をターゲットにした広告のことです。Web広告やアプリ内広告を通じて、過去に接点のあった顧客へパーソナライズされた情報を届けることで、関心を呼び戻します。
ただし、内容や頻度を誤ると逆効果になる可能性があります。マッキンゼーの調査(2021年)では76%の消費者が「的外れなパーソナライゼーションに苛立ちさえ覚える」と回答しています。広告配信には、顧客の興味や行動データをもとにした精度の高い設計と、適切な頻度が求められます。
参考:Meltwater 大規模なパーソナライゼーション戦略 KKD(経験・勘・度胸) に頼らない消費者調査
サポート型の手法
リテンションマーケティングにおいては、顧客との関係を維持するため、サポート体制が欠かせません。商品やサービスの利用中の課題や疑問への適切な対応が、信頼と満足度の向上につながります。
カスタマーサポート
カスタマーサポートは、顧客からの問い合わせに対応する窓口です。電話・メール・チャット・LINEなどを通じて疑問や不明点を解消することで、顧客満足度の向上に寄与します。
リテンションマーケティングにおいては、契約後のフォローが継続利用や再購入を促す重要な要素となります。対応の過程で得られる顧客の声(VOC:Voice of Customer)は、商品改善や施策の見直しに活用できる貴重な情報源です。顧客対応の質を高めることで、信頼感や安心感を醸成し、長期的な関係維持につながります。
カスタマーサクセス
カスタマーサクセスは、顧客の成功を支援することを目的とした取り組みです。カスタマーサポートが受動的な対応であるのに対し、カスタマーサクセスは顧客の利用状況や課題を先回りして把握し、能動的な支援を行います。
例えば、SaaS管理ツールの導入企業に対して、活用されていない機能の利用促進や運用改善の提案を行うことが一例です。解約率の低下や継続利用の促進が期待できます。カスタマーサクセスは、ビジネスの成功を目指すパートナーとしての役割を担うともいえます。
リテンションマーケティングを成功に導くポイント
リテンションマーケティングを効果的に運用するには、感覚ではなくデータと指標に基づいた判断が欠かせません。ここでは、成功の土台となる4つの重要なポイントについて解説します。
顧客のデータ分析を行う
リテンションマーケティングの第一歩は、顧客を深く理解することです。顧客データを収集・分析することで、最適なアプローチが可能になります。顧客データには、以下のようなものがあります。
- 年齢・性別・職業・居住地など
- 購買履歴
- 利用頻度
- Webサイトの訪問履歴
- SNSでのコメント
- アンケート
SNSやアンケートのテキストデータは、「センチメント分析」などで活用でき、商品に対する顧客の感情や満足度を把握することが可能です。
明確なKPIを設定する
リテンションマーケティングの成果を測るには、中間目標であるKPI(重要業績評価指標)の設定が不可欠です。代表的な指標には以下のようなものがあります。
- リテンションレート(既存顧客維持率)
- チャーンレート(解約率)
- 再購入率
- メール開封率
- キャンペーンへの反応率
リテンションレート(既存顧客維持率)とは、継続的に商品・サービスを利用する顧客の割合のことです。複数のKPIを設定し継続的にモニタリングすることで、施策の有効性を把握することが可能です。
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施策を実行しPDCAを回し続ける
リテンションマーケティングは、一度の施策で完結するものではなく、継続的な改善が不可欠です。そのためには、PDCAサイクルの運用が重要です。
まず「Plan」で施策の目的やKPIを設定し、「Do」でメール配信・SNS投稿・プッシュ通知などを実行します。次に「Check」でKPIの成果を測定・分析し、「Act」で改善策を講じることで、施策の精度を高めていきます。
複数施策を組み合わせる場合は、優先度や効果を見極めながら進めることが重要です。目的とKPIを明確にした上で定期的に振り返りを行えば、リテンションマーケティングの成果を安定的に伸ばせるでしょう。
ツールを活用する
リテンションマーケティングの精度を高めるには、適切なツールの活用が不可欠です。近年ではAIの進化により、分析やセグメント分け、配信の自動化なども可能になり、作業効率の向上につながっています。以下のようなツールが代表的です。
- CRM(顧客関係管理)ツール
- MA(マーケティングオートメーション)ツール
- ソーシャルリスニングツール
CRMツールを活用すれば、メールやカスタマーサポートなどの顧客とのやり取りを軸に顧客データを一元管理できます。MAツールは見込み顧客を育成していくためのツールですが、自動メール配信機能などリテンションマネジメントにも活用できる機能がそろっています。ソーシャルリスニングツールは、SNSやブログ上の発言を分析するツールで、顧客の潜在的な欲求である消費者インサイトを読み取ることが可能です。
適切なツール選定と運用によって、施策成果の最大化が可能になります。
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リテンションマーケティングの成功事例
リテンションマーケティングは業種を問わず活用されており、成果を上げている企業も多数存在します。ここでは、実際の事例を通じて、具体的な取り組みとその効果を紹介します。
スターバックス®コーヒー:Starbucks® Rewardsプログラム
世界的なカフェチェーンであるスターバックスコーヒーは、Starsという独自のポイントシステムを導入した「Starbucks Rewardsプログラム」を展開しています。購入金額に応じてStarsを付与し、商品と交換できる仕組みです。顧客の来店頻度の向上とブランドへの愛着を促進しています。
また、会員の更新日までに250Stars以上貯めると誕生日特典や先行販売特典がつくなど、利用頻度に応じて特別なサービスを提供することで、関係性の深化を図っています。、
Netflix:関心に合ったコンテンツのレコメンド
動画配信サービスを展開するNetflixは、ユーザーの視聴履歴や行動データをもとにコンテンツをレコメンドするパーソナライズにより、顧客リテンションを高めています。ジャンルの好みや視聴時間帯、使用デバイスなどの詳細なデータを分析し、個々に最適な作品を提案することで、満足度と利用頻度を向上させているのが特徴です。
さらに、視聴傾向をもとにオリジナル作品の企画・制作にも活用しており、サービス全体の魅力強化にも貢献しています。こうしたデータ活用により、解約率の低下やLTVの向上を実現しており、リテンションマーケティングの成功事例として注目されています。
星野リゾート:顧客データを活用したおもてなし体験
宿泊施設を運営する星野リゾートは、宿泊後のアンケートをもとに顧客の好みや要望を整理し、次回の訪問時に個別対応することで、最適なおもてなし体験を提供しています。マネージメント層だけでなく、顧客と直に接するスタッフにも共有されていることが特徴です。
2023年の株式会社ネオマーケティングのリサーチでは、星野リゾートは利用したいホテルのトップに上がりました。理由として挙げられたのは、有名であることや高級感があることなどです。顧客満足度を向上させることが、ブランディングにも効果を与えているといえるでしょう。
ラグノオささき:SNS分析をもとにサービス改善
菓子製造・販売を行う食品メーカーのラグノオささきは、Twitter公式アカウントの運用とSNS上の消費者の声の分析を行いました。ターゲットを理解することで、SNSのキャンペーンごとに確実にフォロワー数を伸ばしました。また、社内でオンラインの反応を共有することで、製造現場や開発チームのモチベーション向上にもつながりました。
▶︎Meltwaterのお客さま事例:株式会社ラグノオささき
まとめ|リテンションマーケティングで顧客関係を強化
リテンションマーケティングは、既存顧客との関係を深め、継続的な売上やLTV向上を図る戦略です。SNSやメール、ポイント制度、レコメンドなど多様な手法を活用し、顧客のニーズに応えることで満足度とロイヤルティを高められます。
成功には、顧客データの分析や明確なKPI設定、PDCAの継続的な運用が不可欠です。ツールを活用しながら、より効果的な顧客維持を実現しましょう。
この記事の監修者:
宮崎桃(Meltwate Japanエンタープライズソリューションディレクター)
国際基督教大学卒。2016年よりMeltwater Japan株式会社にて新規営業を担当。 2020年よりエンタープライズソリューションディレクターとして大手企業向けのソリューションを提供。 ソーシャルメディアデータ活用による企業の課題解決・ブランディング支援の実績多数。 趣味は映画鑑賞、激辛グルメ、ゲーム
