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“検索しない世代”にどう届ける?Z世代以降の“偶然発見”型マーケティング戦略

“検索しない世代”にどう届ける?Z世代以降の“偶然発見”型マーケティング戦略


山﨑伊代

May 30, 2025

新たに注目されはじめた「検索しない世代」の登場によって、インターネットでのマーケティング戦略は大きく変化しています。「検索しない世代」であるZ世代は、消費の主役として大きな影響力を持ちつつあり、マーケティングで重視されはじめたからです。

今回の記事では、Z世代が検索をしない理由や背景と世界的なトレンドをわかりやすくまとめました。さらに、「SNSを第一の情報源とする理由」、「検索ワードを思いつかないという新しい課題」、「TikTok is the new Google」についても詳しく解説します。

Z世代の特性を理解し、今後のビジネス成長を支えるパーソナライズされたマーケティング手法を学びましょう。

Z世代が主役となる市場構造の変化

Z世代が現代のマーケティング戦略で重要視されているのは、既に大きな影響力を持つ消費の主役となりつつあるためです。Z世代は世界人口の約4分の1である約20億人を占め、今後50年間にわたり市場を牽引する最大の消費者層になると予測されています。

さらに、Z世代は世界の消費総額の約17%に相当する無視できない購買力を持っており、その割合は今後6年間で19%に達する見込みです。

また、「検索しない世代」と称されるZ世代は、情報収集や購買に関する意思決定プロセスが従来の世代とは異なります。Z世代は検索エンジンよりも、「SNSやインフルエンサーからの情報」、「友人や家族の口コミ」を重視する傾向が強いのです。

「検索しない世代」と称されるZ世代

参考:NIQ「世界人口の25%近くを占めるZ世代の消費行動を読み解く」,Visa「Searching for the consumer of tomorrow: The Gen Z opportunity

Z世代はなぜ検索しないのか?その行動背景と世界的トレンド

Z世代が検索しない理由・背景・課題や、「TikTok is the new Google」と呼ばれる現象についてまとめました。Z世代の行動パターンや検索しない理由を理解し、今後どのようなマーケティングが必要なのか検討しましょう。

SNSが“第一の情報源”になった理由

Z世代が情報収集のときにSNSを主要なチャンネルとする背景には、「受動的な発見」という特性が大きく関わっています。

InstagramやTikTokは、スクロールするだけで興味・関心に合致する多様な情報と自然に出会えるのが特徴です。スクロールするだけという手軽さや偶発性が、キーワード入力が必要な検索エンジンとは異なる情報探索体験となっています。最新トレンドやリアルな口コミ収集において、SNSのパーソナライズされた表示アルゴリズムは検索エンジンより優位です。

また、Z世代はSNSをニュース、商品情報、ライフスタイル全般にわたるキュレーションメディアとして捉えています。New York Postによれば、Z世代ではSNSが検索エンジンの利用時間を上回る傾向が見られるとのことです。

検索ワードを“思いつかない”という新しい課題

Z世代の一部には、「検索ワードが思いつかない」、「言語化自体が苦手」という特性があると考えられています。

幼少期から検索エンジンの使用頻度が低く、代わりに画像や動画中心のSNSで視覚的に情報を得るのに慣れていることが要因として挙げられます。

「TikTok is the new Google」と呼ばれる現象とは?

アメリカを中心に広まっている「TikTok is the new Google」とは、Z世代が最初の情報収集にTikTokを利用する現象です。Forbes Advisorの調査によると、Z世代の46%が情報検索にSNSを利用していることがわかっています。

とくにTikTokはエンタメ性が高く視覚的にわかりやすいため、ユーザーの関心を引きつけやすいのが特徴です。たとえば、飲食店を探すときにTikTokで店内の雰囲気や実際の料理を確認するといった使い方をします。

「TikTok is the new Google」現象の背景には、Z世代がリアルさや信頼性を重視する傾向があります。企業が発信した広告よりも、一般ユーザーによる率直なレビューや体験談を含む動画コンテンツに価値を見出しているのです。

TikTokにはユーザー生成コンテンツが豊富にあり、アルゴリズムによって個人の興味・関心に合わせた動画がおすすめされます。そのため、効率的に楽しく情報収集ができるプラットフォームとして、従来の検索エンジンの代替となりつつあります。


「検索される前に届ける」時代の戦い方

検索行動が変化している現在、企業にはSEOにくわえて、ユーザーが検索前に偶発的に情報と出会えるようにする戦略が求められます。

具体的には、SNSでユーザーの目を引く短尺動画や、共感を呼ぶコンテンツを継続的に発信する取り組みが重要です。また、インフルエンサーマーケティングやユーザー参加型のハッシュタグチャレンジなども有効な手段です。

くわえて、SNSのレコメンドアルゴリズムを理解し、ターゲット層に最適化されたコンテンツを適切なタイミングで配信しましょう。企業は世界的な流れに適応し、検索エンジンだけに依存する従来の戦略から多角的なデジタルマーケティング戦略へとシフトしていくべきです。

Z世代の日常に自然に溶け込んだ情報提供の仕組みが、今後の競争優位性を確立する上で極めて重要になります。

新時代の偶然発見型マーケティング

検索行動をしないZ世代に、どのようにアプローチすればよいのかについてまとめました。検索されないことを前提に、SNSのレコメンドアルゴリズムを活用した効果的なアプローチ方法を考えましょう。

「検索されない前提」でどう届けるか

検索されない前提で意図しない発見をユーザーに提供できるよう、SNSのアルゴリズムに評価されやすいコンテンツの設計・発信が不可欠です。

ユーザーが潜在的に求めている商品・サービスとの偶然の出会いを演出する手法は、セレンディピティ・マーケティングと呼ばれます。従来の検索を前提としたSEO中心のマーケティングだけでなく、自然な情報接触の戦略的な設計が重要です。

偶然発見型のマーケティングの成功のためには、プラットフォームのアルゴリズムへの理解と活用が鍵となります。

3大SNSで“見つかる仕組み”をどう作るか

主要なSNSはそれぞれ異なる特性を持っているため、ユーザーがコンテンツを偶然発見する導線も異なります。TikTok、Instagram、YouTubeそれぞれの導線・特徴・マーケティングの要点などを、以下の表にまとめました。

3大SNSで“見つかる仕組み”をどう作るか

Z世代に刺さった“偶然発見”の成功事例4選

Z世代に刺さって大きくバズったり、予想以上にKPIを達成したりした成功事例4選を紹介します。それぞれに共通するZ世代へのアプローチ方法の本質をつかみ、自社のインターネットマーケティングに取り入れましょう。

1. 採用も集客もTikTokで完結「焼鳥どん」

「焼鳥どん」では「アルバイトスタッフを笑わせたい」とはじめたTikTokの投稿が大きな話題を呼び、集客につながりました。

「飲食店あるある」、「キッチンの裏側」などをユーモラスに紹介する動画は、Z世代におもしろいコンテンツとして受け入れられました。TikTokの投稿が多くのユーザーに「焼鳥どん」への興味を持たせ、お店へと足を運ばせるきっかけになっています。

プロモーションが、TikTokというひとつのプラットフォーム内で完結している点にはとくに注目するべきです。動画がおもしろいためおすすめに表示され、自然に「偶然の発見」を生み出し、結果的にユーザーの来店やアルバイト応募につながっています。

参考:TikTok for Business「採用から集客まで、すべてTikTokで。客足が途絶えないTikTokフォロワー14万人超の焼鳥屋で起きていること【焼鳥どん日垣兄弟インタビュー】

2. リアル×エンタメでZ世代に刺さるアパレル「yutori」

アパレルブランドを展開する「yutori」は、憧れよりも親近感を重視した戦略でZ世代の支持を得ています。たとえば、「yutori」は以下のようなさまざまな工夫を取り入れています。

  • Z世代に人気の心理テスト「MBTI診断」を取り入れたリール動画の投稿
  • ユーザー生成コンテンツの積極的なシェア
  • Instagramストーリーズでのリアルな日常感の演出

上記のような工夫によって、ユーザーが作り込まれた広告ではなく、身近な友人に接するような感覚でブランドに接触できる機会が創出されています。

3. 商品でバズを生むペヤングのSNS戦略「まるか食品」

カップ焼きそば「ペヤング」のメーカー「まるか食品」は、ユニークなフレーバー展開を軸としたSNS戦略で話題です。

激辛、超大盛り、アップルパイ味といった意外な商品を投入し、「試してみたい」、「ネタになる」と感じるおもしろさを提供しています。意外性のある商品はSNS上で自然に拡散されやすく、ペヤングの話題がタイムラインに流れてくる機会が増加します。

Z世代が好む「おもしろさ」、「即時性」にフォーカスした商品開発をおこなうほか、人気インフルエンサーとのコラボ企画にも積極的です。インフルエンサーとのコラボでレコメンドされる機会を増やし、ペヤングの商品が偶然発見される仕組みを作り出しています。

参考:まるか食品株式会社「お知らせ|2025年

4. 縦型ショートドラマがZ世代にヒット「JAL」

JALはTikTokで久米島を舞台にした縦型ショートドラマを公開し、Z世代への効果的なアプローチに成功しました。久米島を舞台に旅先でのあるあるネタや、島の魅力をエンタメ性豊かに描いて多くの視聴者の共感を呼びました。従来の航空会社の広告とは異なるストーリー性のあるコンテンツが、Z世代の興味を引きつけたのです。

動画の公開でフォロワー数が大幅に増加し、久米島路線の航空券予約も急増するなど、設定したKPIを大きく上回る成果を達成しています。

参考:ウェブ電通報「JALはなぜ縦型ショートドラマで成果を出せたのか? 1000万回再生の裏側

Z世代に“見つかる”ための5つのマーケティングアクション

Z世代に偶然見つかるための具体的なマーケティングアクションを5つ紹介します。それぞれが自社で実施できているかを見直し、効果的にZ世代のエンゲージメントを高めましょう。

Z世代に“見つかる”ための5つのマーケティングアクション

1. 「検索される前提」のキーワード設計を見直す

Z世代へのマーケティングにおいては、従来の検索エンジンの利用を前提としたキーワード中心の設計からの脱却が不可欠です。

Z世代はSNSで偶発的に情報と出会うことを重視するため、共感できる体験やストーリーに紐づくコンテンツ設計が求められます。たとえば、「週末に思わず出かけたくなるカフェ」のように、ユーザーの感情に寄り添った言葉、ハッシュタグ、ビジュアル要素が必要です。

今後は商品の説明以外にも、利用して得られる体験価値や、ブランドが持つストーリーへの共感を呼び起こす表現方法が重要になります。

2. レコメンドされやすい構成(短尺・縦型・音つき)を意識する

SNSでZ世代にコンテンツを見つけてもらうためには、レコメンドアルゴリズムに適合する構成要素を取り入れる必要があります。

TikTok、Instagram、YouTubeなどのショート動画では、短尺・縦型・音つきといった基本フォーマットを守りましょう。基本フォーマットはスマホでの視聴に最適化されており、ユーザーが短い時間で多くの情報を消費する行動様式に適しています。

3. ユーザーが「自分ごと化」できる共感ストーリーを重視する

Z世代は広告的な表現よりも、自分の経験や感情と重ねて捉えられるようなストーリーやシチュエーションに心を動かされます。

たとえば、商品の使用感の完璧な演出より、一般的なユーザーが商品を実際に使用している様子のほうが受ける可能性があります。一般ユーザーの使用によって生まれる、リアルな感情や発見などを盛り込むほうが共感を呼びやすいでしょう。

また、よくある悩み、喜び、あるあるネタなどを含めると、自分ごとと強く認識させて没入感を高められます。

4. SNS広告も「興味・関心に基づいて」配信を最適化する

Z世代へのアプローチではユーザーの行動履歴や属性を分析し、SNS広告の配信設計を興味・関心に基づいて行うのが効果的です。

SNS広告では、「過去の閲覧履歴」、「いいねやシェアといったエンゲージメント」などのデータで精緻なターゲティングができます。正確にターゲティングすれば、潜在的に関心を持ちそうなZ世代ユーザーのタイムラインに自然な形で広告を表示させることが可能です。

それぞれのターゲティングオプションやクリエイティブの特性を理解し、A/Bテストで効果の高い配信設定を見つけ出しましょう。

5. 「誰かに見せたい」余白を作る

Z世代の間でバズらせるには、自分なりの解釈をしたりツッコミを入れたりできる余白を作るのが有効です。

完成されたコンテンツは一方的な情報提供と感じられてしまい、シェアやコメントといった能動的なアクションを促しにくい傾向があります。一方、未完成感や議論の余地があると、「友達に話したい」、「意見をコメントしたい」といった欲求を生み出しやすいのです。

コミュニケーションのきっかけとなり、シェアやリミックスといった行動を通じて自然に拡散されるコンテンツを作るように意識しましょう。

検索しないZ世代に向けて戦略的にアプローチしよう

Z世代の影響力の増大により、従来の検索エンジンを中心とした情報収集は大きく変化し、SNSがマーケティングの中心となりつつあります。「検索しない世代」であるZ世代は人口・消費ともに大きな割合を占めるため、この世代の独特な価値観や行動様式を深く理解することは不可欠です。

企業は、SNSのレコメンド機能を活用し、「検索される前」にユーザーが情報と偶然出会う機会を創出するべきです。Z世代のリアルな興味・関心に寄り添い、思わず誰かに共有したくなる魅力的な体験を通じてアプローチしましょう。

この記事の監修者:

山﨑伊代(Meltwate Japanエンタープライズソリューションディレクター)

大学卒業後、新規顧客開拓セールスコンサルタントとしてMeltwater Japan株式会社入社。
食品・生活用品・エンタメ・自動車・機械・学校法人等多種多様な企業・団体の広報・マーケティング部門のデジタル化並びにグローバル化をMeltwaterのソリューションを通して支援。 2016年~2018年グローバルセールスランキング首位。 趣味は山登りとビデオゲーム。

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