ソーシャルマーケティングとは、社会課題の解決を目的としたマーケティング活動のことです。
企業のマーケティング担当者の中には、「聞いたことはあるものの、CSRとの違いがわからない」「他社の取り組み事例や効果を知りたい」という方もいらっしゃることでしょう。
この記事ではソーシャルマーケティングが注目される理由や具体的なメリット、企業の成功事例をわかりやすく解説していきます。
ソーシャルマーケティングとは
ソーシャルマーケティングが注目される理由
ソーシャルマーケティングとCSRの違い
ソーシャルマーケティングのメリット4つ
ソーシャルマーケティングの注意点3つ
ソーシャルマーケティングの事例3つ
まとめ|ソーシャルマーケティングで企業価値を高める
ソーシャルマーケティングとは
ソーシャルマーケティングとは、社会課題の解決を目的としたマーケティング活動のことです。1960年代のアメリカ消費者運動をきっかけとして、1980年代にマーケティング学者フィリップ・コトラーによって提唱された概念です。
一般的なマーケティングが顧客の購買行動を促すのに対し、ソーシャルマーケティングは社会にとって有益な行動変容を促進することに焦点を当てています。企業が社会貢献活動を行う際や、NGO・NPOが啓発活動を展開する際に活用されることが多く、社会全体の利益向上を重視するのが特徴です。
商品の売上アップではなく、環境保護や健康促進といった社会が求める価値観の浸透を目指す、社会志向のマーケティング手法といえるでしょう。
ソーシャルマーケティングが注目される理由
ソーシャルマーケティングが注目される背景として、社会課題への意識の変化が挙げられます。近年、環境問題や経済格差、性差別といった社会課題に対する人々の関心が大幅に高まっています。2015年にSDGs(持続可能な開発目標)が国連で採択されたことも、この流れを後押ししました。
また情報化社会の進展により、消費者は企業の社会的責任を厳しくチェックするようになり、商品の品質だけでなく企業の姿勢も重視するようになっていることも大きいでしょう。
商品やサービスが溢れる現代において、機能面だけでの差別化が困難になったことも要因の一つです。このような状況で、社会貢献を通じた信頼性の高いブランディングが企業価値向上の重要な手段として認識されるようになりました。
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ソーシャルマーケティングとCSRの違い
CSR(企業の社会的責任)は企業が事業を通じて社会に貢献する包括的な取り組みです。製品開発から製造、人事まで経営活動すべてが対象となります。
一方、ソーシャルマーケティングはCSRの一部として、広告や宣伝の技術を使って特定の社会問題に対する人々の意識や行動を変えることに焦点を当てた活動といえるでしょう。
項目 | ソーシャルマーケティング | CSR |
---|---|---|
目的 | 人々の意識や行動を変える | 企業の責任を果たす |
範囲 | 特定の問題 | 会社全体の活動 |
具体例 | 禁煙キャンペーン、節電の呼びかけ | 環境に配慮した商品、働き方改革 |
ソーシャルマーケティングのメリット4つ
ソーシャルマーケティングのメリットとして、以下の4つが挙げられます。
- 競合との差別化
- 顧客や投資家からの信頼獲得
- 企業イメージの向上による保険効果
- 理念への共感による人材の確保
メリットを1つずつ見ていきましょう。
競合との差別化
現代は商品の品質や価格での差別化が困難になっているため、企業には価値観や理念を示す新たな方法が必要です。そこでソーシャルマーケティングがその解決策となります。
たとえば、環境保護活動に取り組む企業の商品を購入することで、消費者は自分も環境に貢献できているという実感を得られるでしょう。このように社会貢献を通じて企業らしさを伝えることで、商品そのものの機能を超えた価値を創出し、競合他社との明確な違いを生み出すことができます。
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顧客や投資家からの信頼獲得
ソーシャルマーケティングを活用することで、顧客と投資家の両方から高い信頼を獲得することも可能です。顧客は企業の社会的姿勢を重視するようになっており、信頼できる企業として認知されることでブランドロイヤルティが向上します。
また近年、環境・社会・ガバナンスを重視するESG投資が急速に拡大しており、社会貢献に積極的な企業への投資が増加中です。株主総会でもCSR活動に関する質問や提案が頻繁に出るようになり、投資家の関心も高まっています。信頼獲得により、企業は安定した資金調達や顧客との長期的な関係維持が可能になり、経営基盤の安定化につなげられるでしょう。
企業イメージの向上による保険効果
ソーシャルマーケティングにより構築された良好な企業イメージは、危機管理において重要な保険効果を発揮します。日頃から社会課題解決に取り組む企業は、ステークホルダーからの信頼を蓄積できるためです。
企業が不祥事やトラブルに見舞われた際、それまでに築いた社会的信用があることで、批判の声を和らげたり、回復への理解を得やすくなったりするでしょう。一方で、この効果を維持するには普段からの誠実な取り組みと、問題発生時の真摯な対応が不可欠です。ソーシャルマーケティングは企業にとって、将来のリスクに備える重要な投資といえます。
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理念への共感による人材の確保
ソーシャルマーケティングを活用することで、企業理念に共感する優秀な人材の獲得と定着を実現できるでしょう。特に若い世代の労働者は、給与や待遇だけでなく、働く会社の社会的意義を重視する傾向があります。従業員のエンゲージメントが高まることで、生産性向上や離職率低下も期待できるのです。
また、就職活動中の学生にとっても、社会課題に取り組む企業は魅力的な就職先として映るため、採用活動において他社との差別化要因となります。結果として、企業の持続的成長を支える人的資源の確保が可能になるでしょう。
ソーシャルマーケティングの注意点3つ
ソーシャルマーケティングに取り組む際は、以下の3つの注意点を押さえておきましょう。
- 事業内容にあった分野を選ぶ
- 継続的に活動を行う
- 利益につながりにくい点を理解する
それぞれ詳しく解説します。
事業内容にあった分野を選ぶ
ソーシャルマーケティングでは、自社の事業内容に適した活動分野を選択することが重要です。企業イメージに合致せず、顧客に違和感を与える分野を選んでしまうと、期待した効果を得ることができません。
たとえば、IT企業が農業支援を行っても、つながりが見えにくく消費者の共感を得にくいでしょう。活動する理由や現在の事業との関連性を明確に示し、消費者が自然に受け入れられるストーリーを構築する必要があります。
また、その活動をどのように伝え、広めていくかの戦略も重要です。企業の価値観や将来のビジョンと一致した分野を選ぶことで、ソーシャルマーケティングの効果を発揮できます。
継続的に活動を行う
ソーシャルマーケティングには即効性がないため、継続的な取り組みが不可欠です。短期間の活動では顧客に認知されず、ブランドイメージの向上につながりづらいでしょう。継続することで徐々に認知度が高まり、メディアに取り上げられたり協賛企業が現れたりする可能性も生まれるのです。
ただし、いきなり大規模な体制で始めると予算や人員への負担が大きくなり、活動が頓挫するおそれがあります。まずはできる範囲の規模からスタートし、長期的に続けられる内容を設定することが大切です。社外に認知されるまでには一定の時間を要するため、焦らず着実に活動を積み重ねていきましょう。
利益につながりにくい点を理解する
ソーシャルマーケティングには、直接的な売上増加や利益向上につながりにくいという特徴があります。従来の広告宣伝のように商品購入を促すものではなく、企業イメージの向上や信頼獲得といった無形の価値を重視しているからです。
そのため、投資に対する明確な数値的な効果を測定することが困難で、費用対効果の算出も複雑になります。活動にかかる予算や人員コストに対して、どの程度の効果が見込めるかを事前に把握するのは難しいでしょう。このような特性を理解した上で、短期的な利益回収を求めず、ブランド価値向上への長期投資として位置づけることが重要です。
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ソーシャルマーケティングの事例3つ
ソーシャルマーケティングに取り組む企業の事例を3つ紹介します。
ユニクロ:「RE.UNIQLO」
ユニクロは2020年に「RE.UNIQLO」という循環型リサイクルプロジェクトをスタートさせました。この取り組みは、全商品のリサイクルとリユースを目的としており、店舗で回収されたユニクロ製品を3つの方法で活用しています。1つ目は服から服への再生、2つ目は燃料や素材へのリサイクル、3つ目は難民への医療支援としての寄贈です。
環境負荷が高いとされるファッション業界において、資源の有効活用によりCO2排出量削減と廃棄物削減に取り組んでいます。環境問題に関心を持つ消費者に向けて、他社とは異なる価値を提供できており、競合他社との差別化に成功した事例といえるでしょう。
トヨタ:トヨタ環境チャレンジ2050
トヨタ自動車は2015年に「トヨタ環境チャレンジ2050」を発表し、持続可能な社会の実現に向けた長期的な取り組みを開始しました。この活動は、自動車が環境に与えるマイナス要因を限りなくゼロに近づけ、社会にプラスをもたらすことを目指しているものです。
具体的には、2050年までに新車のCO2排出ゼロ、工場でのCO2排出ゼロ、製造から物流、廃棄・リサイクルまでのライフサイクル全体でのCO2排出ゼロという3つの目標を掲げています。自動車業界のリーダーとして環境問題解決への強いコミットメントを示している取り組みといえるでしょう。
サントリー:「天然水の森」活動
サントリーは2003年から「天然水の森」プロジェクトを継続しており、「工場で汲み上げる地下水よりも多くの水を生み出す森を育む」という独創的な目標を掲げています。この活動は、特設サイト「天然水の森 人類以外採用」において、森に住む動物や植物を社員に見立てた斬新なアプローチで情報発信している点が特徴的です。
豊かな水を生み出す森の生き物の営みや、同社の森を守る活動を親しみやすく紹介しており、2015年には第3回Webグランプリの企業BtoCサイト賞でグランプリを獲得しました。単なる環境保護活動にとどまらず、クリエイティブな表現で消費者の関心を引きつけることで、ブランドイメージの向上につなげている事例です。
まとめ|ソーシャルマーケティングで企業価値を高める
ソーシャルマーケティングは、社会課題解決を通じて企業価値を向上させる重要な手法として、多くの企業で注目を集めています。競合との差別化や顧客・投資家からの信頼獲得といったメリットを得られる一方で、事業内容に適した分野の選択や継続的な取り組みが成功の重要な要素となるでしょう。
また、直接的な利益につながりにくいという特性があるため、長期的な視点でブランド価値向上への投資と位置づけることが大切です。自社の価値観と一致した社会課題に取り組むことで、持続可能な企業成長と社会貢献の両立を実現しましょう。
この記事の監修者:
山﨑伊代(Meltwate Japanエンタープライズソリューションディレクター)
大学卒業後、新規顧客開拓セールスコンサルタントとしてMeltwater Japan株式会社入社。
食品・生活用品・エンタメ・自動車・機械・学校法人等多種多様な企業・団体の広報・マーケティング部門のデジタル化並びにグローバル化をMeltwaterのソリューションを通して支援。 2016年~2018年グローバルセールスランキング首位。 趣味は山登りとビデオゲーム。