テクノロジーの進化とともに消費者行動が急速に変化し、従来のマーケティングの常識が通用しないフェーズに突入しています。
こうした中でとくにマーケティング分野で注目されているのが、AIエージェントやリテールメディア、チャットボットといったキーワードです。
これにより、マーケティング担当者にはこれまでとは異なる視点やスキルが求められるようになっています。テクノロジーをいかに戦略的に取り入れるかが、今後の成功を大きく左右するでしょう。
本記事では、2025年の最新トレンドをもとに、これから求められるマーケティング戦略について考察していきます。
購買行動と体験設計を変える3つの注目キーワード
マーケティングトレンドの中でも、将来的により伸びていくと予想される3つの注目キーワードを解説します。
顧客対応の未来を担う「AIエージェント」
近年、ビジネスシーンで注目を集めているのがAIエージェントです。
AIエージェントとは、ユーザーや従業員の意図を正確に理解し、自動で対話や業務サポートを行うAIシステムのことを指します。
日本国内ではすでに認知度が59.2%に達し、業務の効率化を目的としてビジネス現場で導入する企業が急増中です。
たとえば、トヨタ自動車は、AIエージェントを活用した独自システム「O-Beya」を開発しました。
「O-Beya」は、振動や燃費性能など専門分野ごとに9つのAIエージェントを備え、24時間365日いつでも相談できる仮想の大部屋として機能しています。
これにより、ベテランエンジニアの知見を継承し、開発の効率化を図る取り組みを進めているのです。
AIエージェントの活用は、単なる業務の自動化にとどまらず、従業員の負担軽減や顧客満足度の向上にもつながります。
今後も技術の進化とともに、より高度な対話能力や柔軟な対応力を備えたAIエージェントが増え、ビジネスの現場で欠かせない存在となるでしょう。
広告業界を揺るがす「リテールメディア」
リテールメディアとは、小売業が自社のアプリやウェブサイト、店舗内のデジタルサイネージなどを活用し、広告を配信する新しいマーケティング手法のことです。近年では、広告業界においても非常に注目されているキーワードの一つとなっています。
購買データと連携させることで、より高精度なターゲティングが可能なことが特徴です。
たとえば、セブン-イレブンでは、自社アプリ上で広告の配信やパーソナライズされたクーポンを提供することで、顧客来店時の購買行動を効果的に促進しています。
さらに、店内のデジタルサイネージでは、時間帯や天候に応じた広告の切り替えも行われ、柔軟な施策が展開されています。
リテールメディアの登場により、小売はメディアとしての役割も担うようになりました。リテールメディアは「購買に直結する」新たな広告チャネルとして、広告主からも注目を集めています。
高精度な接客を実現する「チャットボット」
高精度な接客を実現するツールとして注目されているのが、チャットボットです。
チャットボットは、ユーザーの問い合わせに対し、AIが即座に自動応答するツールで、顧客対応の質とスピードを大きく向上させます。
代表的な事例として、メルカリはアプリ内にAIチャットボットを導入し、出品や取引に関する疑問を即時解決可能にしました。
この結果、導入から2年でAIチャットボットの利用者数は約12倍に増加し、多くの問い合わせに自動で対応できるようになったのです。
カスタマーサポートの業務負担を軽減すると同時に、ユーザーの満足度も向上させています。
AIチャットボットの活用により、人間には不可能な24時間での対応が可能となり、今後はさらに高度なパーソナライズ機能や多言語対応の進化が見込まれます。
経済インパクトを持つ3つのマーケティングキーワード
続いて、経済に与えるインパクトが強いとされている3つのマーケティングキーワードを紹介します。
成果を最大化する「パーソナライゼーション」
パーソナライゼーションは、ユーザーの行動データをもとに個々に最適化された情報や体験を提供するマーケティング手法です。
日本国内でも導入が進んでおり、導入率は2024年の35%から2025年には48%へと大きく上昇しました。
特にECや小売業界では67%、金融業界では52%と高い割合で活用されており、デジタルトランスフォーメーション(DX)の重要な一環として注目されています。
代表的な事例がNetflixで、視聴履歴や評価をもとにアカウントごとに異なるおすすめ作品を表示しています。これにより、ユーザーの好みにマッチしたコンテンツ提案が可能となり、視聴継続率や視聴体験の向上に成功しています。
Netflixの例に見られるような、AI技術とデータの掛け合わせによるパーソナライゼーションは、ビジネスの成果を最大化するために欠かせない手法です。
価値創出の起点となる「デザイン思考」
デザイン思考は、ユーザー視点に立ち、共感から課題を解決する発想法です。
顧客の本質的なニーズに着目し、ビジネスにおける新たな価値を創出するアプローチとして注目されています。
たとえば、富士通は2020年から全体的にデザイン思考を導入し、DX人材の育成や外部企業との競争を積極的に推進しています。段階的な学習プログラムや社内SNSを活用することで、従業員の意識改革を促し、実践力を高める取り組みが進められているのが特徴です。
デジタル社会における変化の激しいニーズに対応する上で、デザイン思考は企業の競争力強化につながる重要な考え方と言えるでしょう。
エンゲージメントを生む「動画マーケティング」
動画マーケティングは、映像を使って商品やサービスの魅力を直感的に伝える効果的な手法で、SNSやYouTubeの普及により重要性が高まっています。
静的な広告と比べて情報伝達力が高く、視聴者の感情を動かしやすいため、エンゲージメントの向上や購買行動の喚起に効果的です。
たとえば、実写映像にアニメーションを組み合わせ、より視覚的に印象を残す工夫がなされたプロモーション動画も登場しています。
こうした動画は、課題と解決策の提示、および行動喚起までをストーリーとして展開し、視聴者の理解と共感を獲得する構成で成果をあげています。
動画は一方通行の情報伝達にとどまらず、視聴者との対話的な関係を築く有力なツールとして、今後も活用の幅が広がるでしょう。
マーケティングの未来像・トレンド予測
AIやデータ活用が進む昨今、マーケティングはますます高度化・自動化していくと予想されます。
今後注目される技術や考え方をもとに、変化するマーケティングの未来像を探ります。
AIによる広告制作と運用のフル自動化
広告の世界では、AIによる制作・運用の自動化が加速しています。これまでは人手で行われていたクリエイティブ制作やターゲティング、予算配分などの工程を、AIが一括して担う未来が現実味を帯びてきました。
実際、Metaは2026年までに広告作成から配信、効果測定までをAIでフル自動化する仕組みを導入する予定です。
さらに、ユーザーの位置情報などに基づき、同一広告の内容をリアルタイムでパーソナライズする機能が盛り込まれる見込みもあります。これにより、広告運用の手間を大幅に削減し、より効果的かつスケーラブルなマーケティングを実現することが可能です。
成果の最大化とリソースの最適化を同時に達成できる新たな広告運用の形として、注目されています。
透明性と信頼性を重視した倫理的AIマーケティング
AIの活用が拡大する一方、顧客との信頼関係を築くには透明性と倫理性の確保が重要になってきます。
たとえば、AIがどのように意思決定しているかを説明可能にし、アルゴリズムに潜む偏りを検証・排除することが求められます。
また、個人データの取り扱いにおいても、目的の明確化や適切な同意取得が不可欠です。
こうした背景から、多くの企業は「AIガバナンス体制」の構築を迫られており、倫理的かつ責任あるAI活用をマーケティング戦略に組み込む動きが広まっています。
今後は、ただ成果を出すのみならず、AIをどう上手に使いこなすかが問われる時代になりそうです。
今後企業に求められるマーケティングスキルとは
ここまで紹介したマーケティングキーワードやトレンドをもとに、今後企業に求められるマーケティングスキルを3つ解説します。
テクノロジー活用力
今後、企業にはAIやデータなどを使いこなすテクノロジー活用力が求められます。
AIエージェントやチャットボット、パーソナライゼーションの普及が進む中、意思決定や施策設計などに「AIをどう使うか」が重要です。
たとえば、Metaは2026年までに広告制作と配信をAIで完全自動化する構想を掲げています。
マーケターは商品画像と予算を提示するだけで、広告クリエイティブやターゲティングまで全てをAIが処理する仕組みです。
しかし、AIが提供する選択肢の中から最適な施策を選び、全体戦略に組み込む判断は依然として人間に委ねられています。
導入済み企業が成果をあげる一方で、運用設計力やデータリテラシーの有無によって差が出ることもまた事実です。
テクノロジーの使用そのものでは差別化できない時代において、単なるツール利用を超えた活用力が必須となります。
顧客起点の体験設計力
顧客起点での体験設計力は、マーケティング成果を左右する大切なスキルです。
近年では、市場の成熟や情報の飽和などにより製品や価格だけでは差別化しにくくなっており、共感を起点とした体験がブランド価値を高めています。
たとえば、従来の製品訴求に代わり、感情に訴えるストーリーやブランド体験の一貫性を重視したアプローチが求められています。
デザイン思考やストーリーテリング、動画活用などは、顧客に選ばれる理由を明確にする重要な手段です。
顧客の感情や価値観に寄り添い、ブランド体験を設計する力こそ、今の時代に必要なマーケターのスキルでしょう。
マルチチャネルでの接点構築力
今後のマーケターには、複数のチャネルでの接点構築と体験設計力が求められます。
顧客はオンラインとオフラインを自由に行き来しながら商品を選ぶようになっており、チャネルをまたいだ一貫した体験が成果を左右します。
たとえば、アプリでお気に入り登録した商品を、実店舗で試着・購入するという消費者の行動はすでに一般的です。
また、チャットボットで接客した顧客に、店舗在庫と連携したクーポンをLINEで自動配信するといった仕組みも、購買促進に効果的です。
アプリや店内サイネージ、チャットボットなど、オンラインとオフラインを横断するシームレスな体験が、成果に直結する要素となっています。
チャネル単体の断片的な施策ではなく、マルチチャネル全体を設計する力が、ユーザーとの深い関係構築と成果最大化につながります。
まとめ
本記事では、今後のビジネスにおいて企業に求められるマーケティング戦略とスキルを読み解きました。
2025年のマーケティングでは、AIやデータの活用力に加え、顧客に寄り添った体験設計、あらゆるチャネルでの接点構築力が重要です。
変化の激しい時代において企業が成果をあげるには、スキルだけでなく、柔軟な思考や共感力も求められます。マインドの思考面、感情面、両方から進化するマーケターの育成が鍵を握っています。
マーケティングがますます複雑化するこれからの時代、変化を捉え、自ら進化し続けることが、ビジネスの未来を切り開く最大の武器になるでしょう。
この記事の監修者:
宮崎桃(Meltwate Japanエンタープライズソリューションディレクター)
国際基督教大学卒。2016年よりMeltwater Japan株式会社にて新規営業を担当。 2020年よりエンタープライズソリューションディレクターとして大手企業向けのソリューションを提供。 ソーシャルメディアデータ活用による企業の課題解決・ブランディング支援の実績多数。 趣味は映画鑑賞、激辛グルメ、ゲーム