「メンタルパフォーマンス(メンパ)」とは、日々膨大な情報に触れる中で迷うことや選択することを避け、心理的負担を下げる考え方を指します。
近年、消費者は情報過多により「迷うこと」そのものに疲弊し、その疲れが購入や申し込み直前での離脱を招く大きな要因となってきました。
そんな中で、メンタルパフォーマンスはコストパフォーマンス(コスパ)、タイパ(タイムパフォーマンス)に次ぐ第3の消費トレンドとして注目されています。
今回は、若年層を中心に広がるメンタルパフォーマンスの背景や、メンタルパフォーマンスを考慮した「迷わせない」マーケティング戦略を解説します。
メンタルパフォーマンスを重視する時代へ
ネットを見れば、SNS、広告、プッシュ通知、口コミなど情報にあふれる現代。
金額に見合った商品を買う「コスパ」、最小限の時間で最大限の効率化を目指す「タイパ」という言葉が世間に溢れ、常に「最適な選択をしなければならない」という圧力にさらされています。
現代の消費者は、一日にいくつもの選択を迫られ、「情報が多すぎる」ことに疲弊しています。そんな「判断疲れ」を背景に、新たなトレンド「メンタルパフォーマンス」が生まれました。
判断疲れを避けたいという欲求
これまでは、いかに安く(コスパ)、いかに早く(タイパ)手に入れるかが正義とされる風潮がありました。確かに、「コスパ」や「タイパ」は、時間やお金の無駄遣いを減らすための効率的な考え方です。
しかしながら、コスパやタイパが現代人のメンタルを疲弊させていることも事実です。
だからこそ、今「判断する」ことから解放されたいという欲求が出てくることは不思議ではありません。
"共感"から距離を置きたい心理
近年のマーケティングでは、価値観や体験を共有したり、感情に寄り添ったりすることで消費者のブランド・ロイヤルティを向上させることを目的とした「共感マーケティング」と呼ばれる手法が主流です。
しかし同時に、ネットで感情を揺さぶられ続けることによる疲れや、過度なパーソナライズへの警戒による「共感疲れ」が生まれています。
多くの情報や会話に触れることは、消費者の心的エネルギーを奪い、「他人の反応に振り回されず、自分軸に戻りたい」という心理的な変化を生んでいます。
データが示す"自己観察"と"静かな環境"への渇望
その兆候として、ストレス軽減やメンタルケアを目的とする「ジャーナリング」を取り入れる人が増えています。ジャーナリングとは、頭の中に浮かんだことをそのまま紙に書き出すことで、「書く瞑想」とも呼ばれています。
feppiness株式会社が実施した調査によると、Z世代(1990年代半ばから2010年代序盤に生まれた世代)の半数以上がジャーナリングを実践していることが分かりました。
さらに、SNS上での会話を収集・分析できるMeltwaterのソーシャルリスニングツールエクスプロア<Explore>を使って「ジャーナリング」を調べると、以下のような内省に関連するキーワードが上位に挙がりました。
- 自己観察
- 自己批判
- 自己肯定感
- エネルギー
つまり、現代の消費者は「外からの刺激」よりも「自分のメンタルパフォーマンスを維持できる静かな環境」を求め始めていると言えるでしょう。
出典:PR TIMES 【調査】75.8% ※1が実践済、デジタル疲れ時代に注目の新習慣「ジャーナリング」
"最適化疲れ”からの離脱と判断の放棄
コスパやタイパといった言葉のもとでは、常に効率的であることが求められ、プレッシャーに感じてしまう人も少なくありません。情報のアップデートが激しい現代、常にその「最適」な答えは変動し、今日の「正解」は、明日には「不正解」にもなり得ます。
常に最適な選択をしなければならないという無意識の強迫観念は、消費者にストレスをもたらし、"最適化疲れ”を起こしています。この疲弊の先に、「メンパ」が生まれ、「もう、迷いたくない」「判断することから逃げたい」という、メンタルを最優先した消費者心理が生まれました。
メンパ時代、企業が今すぐ見直すべきマーケティング戦略は?
2026年には、メンタルパフォーマンスを重視した消費者行動はますます顕在化することが予想されています。「選ぶこと」に疲れたメンパ時代、企業はどのようなマーケティング戦略を立てるべきなのでしょうか。ここでは、企業が今すぐ見直すべき具体的なポイントを整理します。
プッシュ通知頻度・時間帯の最適化
まず、アプリの「プッシュ通知」の頻度や時間帯の見直しが必要です。
プッシュ通知は、ニュースやメッセージ、クーポンなどの情報をユーザーのスマホ画面に届けることができる機能です。
リアルタイムに最新情報を届けることは、プッシュ通知の大きなメリットです。一方で、通知が過剰になると「ノイズ」として認識されやすいというデメリットもあります。
また、通知を送るタイミングの見直しも重要です。忙しい時間帯は避け、セール期間中や重要な情報の配信時など、ユーザーにメリットのあるタイミングに限定する施策への転換が求められます。
選択肢の整理
メンパ時代には、「迷わせない」ための制度設計が不可欠です。
選択肢が多いことは一見メリットに見えますが、最近では「選ぶこと」自体に費やすエネルギーを最小化したいと考える傾向が強まっています。
選択肢が多いと選ぶのが面倒になり、「買わない」「やめる」という選択を放棄する「決定回避の法則」が働きます。
そのため、商品のラインナップやプラン設計を整理し、選択肢を極力減らすことが求められます。
たとえば、プランを3つに限定すると「松竹梅の法則」が働きます。「松竹梅の法則」とは、3つの選択肢を用意すると、中間のものが選ばれやすいという理論です。
人の短期記憶は一度に3〜5つまでしか保持できないと言われているため、選択肢は最大でも5つまでに絞ると良いでしょう。
リターゲティング広告の表示回数の見直し
「リターゲティング広告」の表示回数を減らすことも、メンパ時代に考慮すべきポイントです。リターゲティング広告とは、過去にサイトを訪れたユーザーに配信される広告です。
リターゲティング広告には、見込み顧客に再アプローチできることや、広告の配信対象を絞ることができるといったメリットがあります。
一方で、メンタルパフォーマンスを重視する人にとっては、同じ広告を頻繁に目にすることにより、広告を読んだりクリックしたりする気にならなくなり、逆効果になる可能性があります。
世界的なデジタル消費者行動調査会社GWIのデータを基に、DataReportalが公表した2024年版レポートによると、日本国内のインターネットユーザーの約15.8%が広告ブロックツール(アドブロッカー)を使用していることが分かりました。世界平均の31.5%と比較するとその値は約半数ではありますが、約6人に1人が広告ブロックツールを使用している計算です。
広告ブロックツールが普及している背景には、同じ広告が何度も表示されることがストレスや嫌悪感を生み、ユーザー体験を損なうことがあります。ブランドへの好感を損なうリスクにつながらないよう、フリークエンシーキャップ(一人のユーザーに広告を表示する回数の上限)の見直しなど、ユーザー体験を考慮した広告運用を心がけることが大切です。
出典:DataReportal Digital 2024 July Global Statshot Report
KPIを再設計する?“量”から“質”の転換へ
KPIとは「重要業績評価指標」を意味し、最終的な目標達成に向けてパフォーマンスを数値で測定するための指標です。従来のKPIは、インプレッション(広告・コンテンツの表示回数)やCTR(クリック率)、配信頻度、セッション数(サイトへの訪問回数)といった「数」の最大化が主流でした。
しかし、メンパを意識した戦略では、ユーザーの意思決定コストを下げ、「迷いなく、納得して判断できる状態」の導線を整える必要があります。これにより、心理的ストレスを排除した結果として現れる中長期的なエンゲージメントにつなげることができます。
ここでは、メンパ時代に注目すべきKPIを3つご紹介します。
指名検索比率
「指名検索比率」とは、企業名やブランド名、商品名などの固有名詞で検索して訪れたユーザーの割合のことです。
指名検索比率はユーザーが能動的にブランドや商品に興味を持って検索している指標であり、顕在的ニーズもあるため、コンバージョン率が高い傾向にあります。
指名キーワードの洗い出しやターゲット層の明確化、ウェブサイトの最適化などにより、指名検索比率の向上が期待できるでしょう。
コンテンツ完読率
コンテンツ完読率(読了率)は、自社のウェブサイトや記事、LPなどが「最後まで読まれたか」を測る指標です。完読率が高いコンテンツは、読みやすく、必要な情報が網羅されており、読了後のアクションにつながりやすいと言えます。
メンパ時代には特に、短時間で理解できて、迷いを解消できる構成が重要になります。コンテンツ完読率を改善するには、質の高いコンテンツ作成や、結論→理由→詳細の順で読者の負担を下げる構成、読者の視線の動きに沿ったレイアウトなどの工夫が必要です。
顧客ロイヤルティ
顧客ロイヤルティは、ユーザーが企業やブランドに抱く愛着や信頼の度合いを測る指標です。顧客ロイヤルティのKPIには、商品やサービスをどの程度他人に勧めたいかという「推奨度」をスコア化したNPS®(ネット・プロモーター・スコア)や、ソーシャルリスニングによる感情分析などがあります。
メンパ時代には、「この商品なら間違いない」「この企業やブランドなら安心」と思ってもらえるような顧客との信頼関係の構築が、顧客ロイヤルティの向上や継続的な購買行動を促進します。
まとめ|メンパ時代は"迷わせない"戦略が鍵
情報過多の現代では、ユーザーにとって「数ある選択肢から比較して選ぶこと」や過度な通知は、脳を消耗させるストレスフルなものへと変容しつつあります。
これからのマーケティングに求められるのは、ユーザーのメンタルパフォーマンスを尊重する姿勢です。まずは通知頻度や選択肢の数、リターゲティング回数などを見直し、ユーザーとの接触を適切に切り替えることが効果的です。
そのうえで、ブランドロイヤルティの向上に努め、ユーザーが「迷わずに選択できる」快適な購入体験を設計しましょう。心理的負担を最小限に抑え、納得感のある意思決定をサポートすることがメンパ時代の新たなスタンダードとなるでしょう。
この記事の監修者:
宮崎桃(Meltwate Japanエンタープライズソリューションディレクター)
国際基督教大学卒。2016年よりMeltwater Japan株式会社にて新規営業を担当。 2020年よりエンタープライズソリューションディレクターとして大手企業向けのソリューションを提供。 ソーシャルメディアデータ活用による企業の課題解決・ブランディング支援の実績多数。 趣味は映画鑑賞、激辛グルメ、ゲーム

