マーケティング戦略を立てる際、どのような手法を使えばよいか悩んでいる方もいるのではないでしょうか。効果的な戦略を構築するには、顧客理解や競合との差別化は欠かせません。STP分析はそのような課題を解決する手法の一つです。
この記事では、STP分析の基本的なやり方から、実施するメリット、活用すべきタイミングまで幅広く解説します。他のフレームワークとの違いや実際の企業事例も紹介していきます。
STP分析とは
STP分析を活用するメリット3つ
STP分析の各要素・やり方
STP分析を活用すべきタイミング
STP分析と他のフレームワークの違い
STP分析の注意点3つ
STP分析で読み解く企業の事例
まとめ|STP分析で戦略を最適化しよう
STP分析とは
STP分析は、マーケティング戦略を立てる際の基本的なフレームワークの一つです。マーケティング論の権威であるフィリップ・コトラーが提唱したもので、現在でも多くの企業で活用されています。
STP分析は、まず市場を細分化(Segmentation/セグメンテーション)し、その中から狙うべき顧客層を選定(Targeting/ターゲティング)します。最後に競合他社との違いや優位性を踏まえて、自社の立ち位置を明確にする(Positioning/ポジショニング)という流れです。この3つの要素の頭文字を取って「STP分析」と呼ばれています。
現代の市場は多様化が進み、すべての顧客に同じアプローチをしても効果が期待できません。限られた経営資源を効率的に活用するためには、自社が勝負できる市場を見極め、そこに注力するのが効果的です。STP分析を行うことで、無駄な投資を避けながら、自社のブランドアイデンティティを構築できるでしょう。
STP分析を活用するメリット3つ
STP分析には、マーケティング活動をより効果的に行うための多くの利点があります。特に重要なのが、市場理解の深化、競合優位性の確立、効果的なアプローチの実現です。これらの3つのメリットに焦点を当て、それぞれどのような効果をもたらすのかを順に見ていきましょう。
市場や顧客ニーズへの理解を深められる
STP分析を活用することで、市場や顧客のニーズに対する理解を深めることができます。分析の最初のステップであるセグメンテーションでは、市場を年齢や性別、職業、地域、収入、ライフスタイルといった基準で細かく分類します。市場がどのような人々で構成されているのかが見え、少数派の要望にも気づくことができます。ペルソナの設計に役立ち、的確な施策へとつなげられる点が強みです。
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競合との差別化ができる
現代の市場では類似商品が溢れているため、顧客にとって選択の決め手となる独自性を打ち出すことが重要です。STP分析の最終段階でのポジショニングを通じて、競合他社との差別化を実現できます。
ポジショニングでは、2つの要素を軸としたポジショニングマップを活用します。価格と品質など顧客が重視する要素を縦軸と横軸に設定し、自社と競合他社の立ち位置をプロットすることで、自社が優位に立てるポジションを発見できます。
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ターゲット市場への効果的なアプローチ
限られた予算や人材で最大限の成果を上げるには、やみくもに多くの人へ届けようとするのではなく、ニーズの高い層に的を絞ってアプローチすることが重要です。STP分析でターゲット市場を明確にすることで、商品やサービスを効果的に訴求できます。
例えば、若年層をターゲットとする場合はTikTok、ビジネス層ならFacebookやLinkedlnなど広告や販売チャネルをターゲット層がよく使う媒体に絞り込むことで、目に留まるようになります。また、価格やデザインをターゲットのニーズに合わせて設定するなど、商品開発にも活かせます。
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STP分析の各要素・やり方
STP分析を実際に進めるには、各要素の具体的な手順を理解することが重要です。ここでは、セグメンテーション、ターゲティング、ポジショニングそれぞれの実践方法を詳しく解説します。
S:セグメンテーション
セグメンテーションは、市場を特徴ごとにグループ分けする作業です。この過程により、顧客の多様なニーズを整理し、効果的なマーケティング戦略の土台を築けます。
市場の細分化に活用する主要な4つの変数は、以下のとおりです。
- 地理的変数: 住んでいる地域、気候条件、人口など
(「関東在住者」「寒冷地域の顧客」など)
- 人口動態変数: 年齢、性別、収入、職業といった基本属性
(「30代女性」「年収500万円以上」など)
- 心理的変数: 価値観、ライフスタイル、性格など
(「健康志向の強い人」「休日はよく山で過ごす」など)
- 行動変数: 購買頻度や商品の使用シーン、ブランドへの愛着度など
(「月1回以上購入する顧客」「特定ブランドの愛用者」など)
このように、セグメンテーションを通じて顧客の状況を把握します。
T:ターゲティング
ターゲティングは、セグメンテーションで細分化した市場の中から、自社が優先的に取り組むべきセグメントを選定するプロセスです。以下の4Rの原則を活用し、セグメントの有効性を判断しましょう。
【4Rの原則】
- Rank(優先順位):市場や競合などを考慮し、どのセグメントを優先すべきか
- Realistic(実現性):売上が見込めるか
- Reach(到達可能性):マーケティング施策が顧客に届くか
- Response(測定可能性):施策の効果が測定できるか
魅力的なセグメントであっても、顧客に届かず売上につながらなければ意味がありません。効果が測定できるかどうかも次の施策に影響します。現実的な視点を持ってセグメントを選ぶことが大切です。
また、選ぶセグメントは、一つに限定しても複数でも構いません。以下のようなマーケティング手法があります。
- 無差別型
セグメントに関係なく、すべての顧客に同じ商品・サービスを提供。資金に余裕がある大企業向け
- 差別型
セグメントごとに異なる商品やサービスを提供。資金に余裕がある大企業向け
- 集中型
特定のセグメントに絞り、商品・サービスを集中投入。限られた資源で勝負する中小企業向け
自社にとって成果が出せるターゲットを見極めることが、マーケティング成功の第一歩となります。
P:ポジショニング
ポジショニングとは、ターゲットとする市場において、自社の製品やサービスがどのような立ち位置にあるかを明確にするプロセスです。他社との違いを示し、顧客に「選ばれる理由」を見出します。
そのために有効なのがポジショニングマップの活用です。縦軸と横軸に価格と機能性など異なる評価軸を設定し、自社と競合の位置を視覚化することで、自社の強みや空白の市場領域を発見できます。
ポジショニングで大切なのは、自社の価値を明確にし、ニーズに最も合致した立ち位置を築くことです。単に他社と違うというだけでは売上は見込めず、顧客が価値を感じられることが大切です。「この分野といえばあの会社」と認識してもらえるような独自性を築き、継続的に維持・強化していくことで、ブランドとしての競争優位性を確立できます。
STP分析を活用すべきタイミング
STP分析は適切なタイミングで実施することで、戦略の精度と成果を最大化することが可能です。
活用すべき主なタイミングは以下の通りです。
- 新規事業の立ち上げ時
- 市場環境の変化時(消費者の価値観やライフスタイルの変化など)
- 競争優位性の再構築が必要な時(市場シェアの低下や新たな競合の登場など)など
新商品・サービスの開発時
海外展開や新市場への進出時
マーケティング予算の見直し時(予算を効果的に配分するために、ターゲットの再評価)
STP分析は単なる初期設計ツールではなく、継続的な戦略改善のための重要なフレームワークとして活用できます。市場や競争優位性の変化にいち早く気づくためにも、定期的にSTP分析を行うことが推奨されます。
STP分析と他のフレームワークの違い
STP分析は、マーケティング戦略の「基本方針」を決めるために使われるフレームワークです。他のフレームワークと組み合わせて使うことで、より正確に自社の立ち位置を把握できます。以下では、主要なマーケティングフレームワークとSTP分析との違いをまとめています。
- 3C分析
顧客・競合・自社の3要素から市場環境を把握する
- SWOT分析
自社の強み・弱み・外部の機会・脅威を整理して戦略の方向性を検討する
- 5フォース分析
既存の競合他社・新規参入企業・代替品・仕入れ先の交渉力・顧客の交渉力の5つの競争要因から、自社への影響を評価する
政治・経済・社会・技術の外部要因を分析し、マクロ環境を把握する
- マーケティングミックス(4P・4C)
4P(製品・価格・流通・販売促進)と4C(価値・費用・利便性・コミュニケーション)を組み合わせ、顧客への効果的なアピール方法を模索する
STP分析でターゲティングやポジショニングをするには、自社や競合、市場の分析が欠かせません。SWOT分析や5フォース分析などで自社の強みや外部環境をより明らかにし、STP分析で戦略方針を定め、マーケティングミックスで施策を具体化するといった活用が可能です。STP分析の流れも、ポジショニングまで行ってからターゲティングにもう一度戻るなど順序に柔軟性を持たせることで、さらに情報が精査されていくでしょう。
STP分析の注意点3つ
STP分析は有効な手法ですが、適切に活用するためには押さえておくべき注意点があります。ここでは、STP分析を実施する際に気をつけたい代表的な4つの注意点について解説します。
STP分析のみで結論を出さない
STP分析によって適切なターゲット層や自社の立ち位置を明確にできても、それだけで売上が伸びるとは限りません。分析はあくまで方向性を定めるための手段であり、その後の施策が重要です。
特に、ターゲットに対してどのように商品やサービスを届け、興味を持ってもらうかといったプロモーション戦略は欠かせません。STP分析で得られた結果は、4Pなどのフレームワークと組み合わせて活用することで、はじめて実践的な戦略に落とし込めます。分析だけで満足せず、行動につなげることが成功のカギとなります。
市場の大きさを把握する
STP分析で最適なポジションを発見できても、その市場が本当に事業展開に適しているかは別問題です。市場規模が極端に小さかったり、将来的に縮小が予想されたりする場合、いくら優位なポジションを確保できても十分な収益は期待できません。
このリスクを回避するには、STP分析の結果を他のデータと照らし合わせて検証することが重要です。市場調査データやPEST分析、業界レポートなどを活用し、対象市場の規模や成長性を客観的に評価しましょう。
また、競合の動向や参入障壁の高さも考慮する必要があります。魅力的に見える市場でも、激しい競争が予想される場合は慎重な判断が求められるでしょう。
顧客目線を忘れない
STP分析において、企業側の視点だけでターゲットを設定してしまうと、顧客ニーズとの乖離が生じ、戦略の成果が得られにくくなる可能性があります。市場の細分化、ターゲティング、ポジショニングを行う際には、常に「顧客は何を求めているのか」「どのような価値を感じるのか」といった視点を持つことが重要です。
自社の都合だけで商品を設計したり、一方的な情報発信に偏ったりするのではなく、顧客の立場に立って考えることで、共感を得られる戦略が生まれやすくなります。顧客理解を深めることは、マーケティング施策の成果向上にも直結します。
そのためには、顧客インタビューやアンケート調査などを通じて、実際の声を戦略に反映させることが有効です。こうした取り組みにより、より実効性の高いマーケティング設計が可能になります。
STP分析で読み解く企業の事例
STP分析は理論だけでなく、実際の企業活動に活かされてこそ価値があります。ここでは、STP分析を活用して顧客の心をつかみ、独自のポジションを確立する方法を企業事例から推測していきます。
スターバックス
スターバックスの戦略をSTP分析を軸に見ていきます。
- セグメンテーション:年齢・職業・利用時間帯・利用目的・地域・価値観など
- ターゲティング:10代後半から高齢者まで幅広い年齢層が対象で、メインは大都市圏の平均以上の収入があるオフィスワーカー。地域課題や環境問題に関心のある層も対象
- ポジショニング:家でも職場でもない「サードプレイス(第3の居場所)」として、人種や障がいなどあらゆる違いを越え、すべての人に快適な空間と高品質なコーヒーを提供
スターバックスは単なるコーヒーショップではなく、生活の一部として多くの顧客に支持される存在となりました。都会的でおしゃれな店舗デザイン、高品質なコーヒー、オリジナルグッズの販売、長時間滞在可能な環境づくりにより、強力なブランドロイヤリティを構築することに成功しています。
ユニクロ
ユニクロは年齢や性別といった従来の枠にとらわれず、幅広い顧客に支持されています。
- セグメンテーション:年齢・性別・ライフスタイル・価値観・地域など
- ターゲティング:年齢や性別、国内外を問わず、ベーシックでカジュアルなファッションを好む層、環境問題に関心のある層などが対象
- ポジショニング:「日常に溶け込む高品質なベーシックウェアを提供するブランド」としての立ち位置を確立。「MADE FOR ALL」「PEACE FOR ALL」を理念に掲げ、海外展開や環境問題にも寄与
シンプルかつ機能的な服づくりによって、トレンドに左右されず長く愛用できるという安心感を提供し、多くの人々の生活に寄り添う存在となっています。リーズナブルでありながら機能性もある商品で、他社との明確な差別化を実現しています。
任天堂
任天堂は常に新しい市場を創造してきた企業です。競合他社とは異なるアプローチで、幅広い顧客層の獲得に成功しています。
- セグメンテーション:年齢・ライフスタイル・価値観(価格、機能など)・使用者のゲームレベルなど
- ターゲティング:ファミリー層を対象とした「ファミコン」や、初心者を対象とした「Wii」などを経て、現在は本格さと手軽さを兼ね備えた「Nintendo Switch」など幅広いユーザーが対象
- ポジショニング:誰でも楽しめるゲームの提供。特にファミリー層への訴求力がある
高画質にこだわらず、シンプルな操作性を重視しプレイ体験そのものに価値を置くことで、他社と一線を画すユニークな立ち位置を築いていることが特徴です。
東京牛乳
東京牛乳は、東京で生産された乳成分の高い牛乳を提供しています。
- セグメンテーション:年齢・職業・ライフスタイル・価値観・地域など
- ターゲティング:高品質なものにこだわる東京在住の30代以上の層が対象
- ポジショニング:値段はやや高めであるものの、新鮮で高品質な牛乳を東京都内にいながらにして飲めることで他社と差別化
酪農家を限定することで、簡単には手に入らない特別感を出しているのも特徴です。
まとめ|STP分析で戦略を最適化しよう
STP分析は、自社の市場での立ち位置を明確にするための重要なフレームワークです。セグメンテーションで市場を細分化し、ターゲティングで適切な顧客層を絞り、ポジショニングで自社の強みを打ち出すことで、他社との差別化が可能になります。
STP分析を正しく活用することで自社の魅力が自然に伝わり、顧客との関係性もより長期的かつ強固なものになります。他のフレームワークとも併用しながら、マーケティング施策にご活用ください。
この記事の監修者:
宮崎桃(Meltwate Japanエンタープライズソリューションディレクター)
国際基督教大学卒。2016年よりMeltwater Japan株式会社にて新規営業を担当。 2020年よりエンタープライズソリューションディレクターとして大手企業向けのソリューションを提供。 ソーシャルメディアデータ活用による企業の課題解決・ブランディング支援の実績多数。 趣味は映画鑑賞、激辛グルメ、ゲーム