SNSの運用ルールを明文化したいと考えているものの、何から始めればよいか分からないという企業担当者の方も多いのではないでしょうか。
この記事では、企業のSNS運用に欠かせないSNSガイドラインの概要から、作成に必要な10項目、具体的な作成ステップまでを解説します。
実際にソフトバンクやコカ・コーラ、シャープなどの大手企業が公開しているガイドライン事例も紹介します。
SNSガイドラインとは?
企業がSNSガイドラインを持つべき3つの理由
SNSガイドライン作成に必須の10項目
SNSガイドラインの作り方6STEP
企業のSNSガイドライン事例3選
まとめ|SNSガイドラインで企業SNSを適切に運用しよう
SNSガイドラインとは?
SNSガイドラインとは、企業がソーシャルメディアを運用する際に従うべき明確なルールや指針のことです。
企業のSNS運用ルールを明文化すれば、情報漏洩やブランドイメージ毀損のリスクを軽減することが可能です。また、担当者が変わっても一貫した対応ができるようになります。
なお、SNSガイドラインは「社外向け」と「社内向け」の2種類があります。
【社外向け】SNSポリシー
SNSポリシー(ソーシャルメディアポリシー)は、企業がSNS上でどのような姿勢をもってコミュニケーションを取るかを示す基本方針です。
SNSポリシーでは「私たちは顧客との対話を大切にします」、「投稿には必ず24時間以内に反応します」というような企業の基本姿勢を表明します。
具体的なルールというより、SNS運用の方向性を示す内容が中心となるため、やや抽象的な表現になることが一般的です。
【社外向け】コミュニティガイドライン
コミュニティガイドラインは、企業のSNSアカウントに集まるユーザーに向けた具体的な行動規範です。誹謗中傷やスパムなどの禁止行為を明確化したり、違反時の対応方針や削除基準などを定めたりします。
コミュニティガイドラインを定めておくことで、問題が発生した際にも、担当者個人の判断に頼らず、企業として毅然と対応でき、トラブルの拡大を未然に防ぐことができるでしょう。
【社内向け】SNSガイドライン
SNSガイドライン(ソーシャルメディアガイドライン)は、企業のSNS運用における危機管理の要となるルールです。炎上時やクレーム発生時の対処方法から日常的な投稿の心構えまで、起こりうるすべての事態に対応できるよう詳細に規定します。
企業がSNSを戦略的に活用するためには、このような具体的な指針が不可欠です。
企業がSNSガイドラインを持つべき3つの理由
SNSガイドラインが必要な理由として以下の3つが挙げられます。
- 炎上などのトラブルを防ぎ、発生時には迅速に対処する
- SNS運用の属人化を避ける
- 投稿のクオリティを保つ
それぞれ詳しく解説します。
炎上などのトラブルを防ぎ、発生時には迅速に対処する
SNSガイドラインが必要な1つ目の理由は、リスク管理を徹底し、企業の評判を守るためです。SNSでは情報が瞬時に拡散するため、不適切な投稿は大きな炎上につながりかねません。
事前にガイドラインで、問題発生時の対応フローや投稿の削除基準などを明確にしておけば、トラブル発生時にも落ち着いて対処できます。
また予防策として、投稿前チェックリストやNGワード集を作成することも効果的です。これらの準備により、トラブルが発生するリスクを低減できます。
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SNS運用の属人化を避ける
SNSガイドラインが必要な2つ目の理由は、運用業務が特定の個人に依存する「属人化」を防ぐためです。属人化とは、業務内容や判断基準を一部の担当者しか把握していない状態を指します。
SNS運用が属人化すると、その担当者にしか判断できない状況が頻繁に発生し、組織として管理が困難になります。また、担当者一人に投稿内容を決定させていると、「反応が気になる」、「常に投稿内容を考えてしまう」といったSNS中毒に近い精神的な負担を強いることにもなりかねません。
ガイドラインを作成することで、投稿ルールや判断基準が明文化され、誰でも同じ対応ができるようになります。
投稿のクオリティを保つ
企業がSNSガイドラインを持つべき理由の3つ目は、投稿の質を一定に保つためです。ガイドラインがない場合、担当者それぞれの感覚で投稿を作成するため、内容や見た目にバラつきが生じます。
トーンやテイストについて細かなルールを設定しておけば、企業として一貫性のある投稿ができます。継続して質の高い投稿をすれば、フォロワーの信頼を獲得し、結果として企業のブランド価値向上につながるでしょう。ガイドラインは単なる内部ルールではなく、企業のブランディング戦略のためにも重要なものであるといえます。
SNSガイドライン作成に必須の10項目
SNSガイドラインを作成する際に盛り込むべき項目は以下のとおりです。
- 基本方針・行動原則
- 機密情報の保護
- 著作権など第三者の権利保護
- 誹謗中傷の禁止
- 誠実で正確な情報発信の徹底
- 真偽不明な情報の発信禁止
- 自社関連の情報発信に関するルール
- 投稿に対する個人の責任の明確化
- 悪質なソフトウェアやツールの制限
- SNSの特性の理解
順番に解説します。
1. 基本方針・行動原則
SNS運用ガイドラインの土台となるのが基本方針・行動原則です。この項目には、運用体制や担当者の役割分担を記載するのが一般的です。また、「顧客との対話を最優先する」、「正確な情報提供に努める」といった行動指針を定めることで、担当者は判断に迷うことがなくなるでしょう。
重要なのは、時代の変化に応じて内容を更新し続けることです。SNSの進化は早く、昨年有効だった手法が今年は時代遅れになることもあります。定期的な見直しを義務付けることで、ガイドラインの有効性を保つことができます。
2. 機密情報の保護
機密情報の保護は、企業存続に関わる重要項目であり、明確な基準設定が不可欠です。SNSでの情報漏洩は瞬時に拡散し、取り返しのつかない損害をもたらします。新商品の開発情報が競合他社に知られれば市場優位性を失い、顧客の個人情報が流出すれば信用は崩壊し、法的責任も問われます。
ガイドラインでは、個人情報のダブルチェックや不明時の対応フローなどの手順を定めることが重要です。写真の背景に写り込む書類やPC画面にも注意を払うよう明記しましょう。
3. 著作権など第三者の権利保護
第三者の権利を侵害しないことは、法的リスク回避の観点からも、企業倫理の観点からも絶対に守るべき原則です。他社のコンテンツや商標の無断使用は訴訟リスクに直結します。インターネット上の画像を勝手に使用したり、有名楽曲を動画BGMに使用したりすることも厳禁です。フリー素材でも利用規約を確認せずに商用利用すれば問題となる場合があります。
ガイドラインには、素材を使用する際の権利確認方法や判断が難しい場合の相談フローなどを記載するとよいでしょう。権利侵害は「知らなかった」では済まされないため、慎重すぎるくらいの対応が必要です。
4. 誹謗中傷の禁止
競合他社や個人に対する誹謗中傷は企業の品格を損なう行為であり、いかなる形でも許されません。SNS担当者の個人的感情による他社の批判は、企業全体の姿勢として受け取られます。
建設的な議論と攻撃的批判の境界は微妙ですが、相手を傷つける意図のある発言は全て禁止します。ガイドラインでは誹謗中傷の具体例を列挙しましょう。
5. 誠実で正確な情報発信の徹底
誠実で正確な情報発信は、顧客との信頼関係構築の基盤となります。嘘や誤解を招く情報を発信すれば、長年をかけて築いたブランドイメージは一瞬で崩壊してしまうからです。
ユーザーからの質問には迅速に丁寧に回答し、誤った情報を発信してしまったときには即座に訂正・謝罪することが必要です。「あとで訂正すればよい」という考えは通用しません。最初から正確な情報提供をすることが責務です。ガイドラインには、事実確認の徹底を促す文言やミスが発生した際の対応フローなどを明確に記載しましょう。
6. 真偽不明な情報の発信禁止
信憑性のない情報や不明瞭な表現は企業の信頼を失墜させるため、使用を一切禁止します。「〜かもしれない」、「〜らしい」といったあいまいな表現は、ユーザーに不信感を与えてしまうでしょう。常に一次情報や公式情報に基づいた発信を心がける必要があります。
信頼できる情報のみを提供することで、ユーザーとの長期的な信頼関係を構築できます。不確かな情報は企業価値を下げる最大の要因となることを、全担当者が認識できるようにアナウンスしましょう。
7. 自社関連の情報発信に関するルール
自社のキャンペーンやイベント情報は戦略的に発信すべき重要コンテンツであり、明確なルール設定が必要です。他社には真似できない独自性のある情報だからこそ、「何を」「誰に」「どのように」伝えるのかを明確にしておく必要があります。
また、自社情報に対する批判的なコメントが寄せられることも想定し、対応フローを事前に決めておくことも重要です。
8. 投稿に対する個人の責任の明確化
トラブル発生時、SNS担当者の責任がどこまで及ぶのかを事前に取り決めておく必要があります。企業アカウントからの投稿でも、個人の意見なのか企業の公式見解なのかの区別を明確にしておかなければ、混乱を招くからです。
責任の所在を明らかにすることで、社員一人ひとりが自覚を持って投稿に臨めます。
9. 悪質なソフトウェアやツールの制限
自動化ツールや悪質ソフトウェアの使用は、セキュリティリスクと信頼低下を招くため厳格に制限すべきです。自動フォローツールもリスクを伴います。これらを使用すると、ユーザーに「機械的」、「不誠実」という印象を与え、フォロワー離れを引き起こす可能性があります。
ガイドラインでは、使用禁止ツールのリストや新規ツール導入時の審査手順などを明記しておくのがおすすめです。便利さを追求して信頼を失うことは避けましょう。
10. SNSの特性の理解
各SNSプラットフォームの特性の理解を深めましょう。X(旧Twitter)やInstagramはリアルタイム性が高く、Facebookはコミュニティ形成に適し、TikTokはエンタメ性が求められるなど、それぞれ異なる特徴があります。また、一度発信した情報は完全に削除できないという「デジタルタトゥー」の性質も理解しておくことが必要です。
特性を理解した上で運用することにより、各SNSの強みを最大限活用しながら、リスクを最小限に抑えることができるでしょう。
SNSガイドラインの作り方6STEP
SNSガイドラインを作る際には、以下の6STEPで進めるとよいでしょう。
- 目的を明確にする
- 社内関係者へのヒアリングを行う
- 構成を設計する
- 内容を作成する
- 関係各所にレビューをしてもらう
- 社内展開と定期的な見直し・改善を行う
順番に解説します。
1. 目的を明確にする
まずはガイドラインの目的を明確にしましょう。その際、方針は、「攻め型」「守り型」「中間型」から選択します。攻め型は禁止事項のみを定め自由度を重視するタイプ、守り型は細かな行動規定でリスクを最小化するタイプ、中間型はバランスを取ったタイプです。同時に適用範囲も決め、全社対象か、特定部署のみか、SNS担当者のみかを明確にしましょう。
2. 社内関係者へのヒアリングを行う
SNS運用に関わる全部署から、判断に迷う場面やトラブル時の不安などについて具体的に聞き取ります。管理側と現場側、それぞれからヒアリングし、認識のギャップも確認しましょう。特に重要なのは、炎上時の責任者と対応フローを明確にしておくことです。
3. 構成を設計する
構成は、基本方針や禁止事項、トラブル対応といった大項目から、中項目、小項目へと論理的に階層化します。目次を見ただけで内容が把握できる、わかりやすい見出しをつけましょう。
構成案ができたら現場担当者に確認してもらい、「この項目が見つけにくい」、「この順番には違和感がある」といったフィードバックを反映します。
4. 内容を作成する
内容を作成する際には、現場で迷わず判断できる明確な指針を示すことが重要です。たとえば「不適切な投稿を避ける」という表現だけでなく、「競合批判」、「個人情報を含む写真」、「未確認情報の拡散」など、具体例を記載するとよいでしょう。
専門用語は使わず、新入社員でも理解できる平易な文章を心がけます。長文はなるべく避け、箇条書きや図表で見やすくし、実際の運用場面を想定しながら作成しましょう。
5. 関係各所にレビューをしてもらう
作成したガイドライン案を各部門の関係者にレビューしてもらいましょう。経営層には企業方針との整合性を、現場担当者には日常業務での使いやすさを重点的に確認してもらいます。
各部門からのフィードバックは速やかに反映し、修正版を再度レビューします。全関係者が「これなら大丈夫」と納得するまで、このプロセスを繰り返します。ここでの妥協は後々大きな問題につながるため、徹底的に行うことが重要です。
6. 社内展開と定期的な見直し・改善を行う
完成したガイドラインを社内に展開します。説明会や研修を実施し浸透を図るのがよいでしょう。運用開始後は、最低年1回の定期見直しを実施するのがおすすめです。
ただし、新しいSNSサービスが登場したり、実際にトラブルが発生したりした場合は、その都度ガイドラインに反映させていく必要があります。最新の状況に対応させることで、現場で本当に役立つガイドラインとして機能するでしょう。
企業のSNSガイドライン事例3選
ここでは、大手企業3社のガイドラインを紹介します。
1. ソフトバンク
同社のポリシーは、基本的な行動規範から具体的な運用ルールまでを体系的に整理した構成となっています。「企業として何を大切にするか」を明確に示し、従業員と公式アカウント双方の行動指針を定めている点が特徴的です。
【構成】
- 基本ポリシー
- 当社公式アカウントの範囲
- ソーシャルメディアの利用目的
- ソーシャルメディアの活用にあたっての基本姿勢
- お客さまへのご案内
包括的な構成により、SNS運用における企業姿勢を明確にしながら、実務上必要な注意事項を網羅的にカバーしています。
参照:ソフトバンク株式会社「ソーシャルメディアポリシー」
2. 日本コカ・コーラ株式会社
同社はアルコールRTD飲料という特定製品カテゴリーに特化したガイドラインを策定・公開しています。年齢制限や責任ある飲酒の推進、不適切なコンテンツの管理など、アルコール製品特有の配慮が詳細に規定されています。
※RTD(Ready To Drink)とは、栓を開けてそのまま飲めるアルコール飲料の総称です。
【構成】
- アルコールRTD飲料に関するコミュニティガイドライン
- 責任ある飲酒
- 転送に関する忠告
製品特性に応じたきめ細やかな配慮と、企業の社会的責任を具体的に示すガイドラインといえます。
参照:日本コカ·コーラ株式会社「ザ コカ・コーラ カンパニーのアルコールに関するSNSコミュニティガイドライン」
3. シャープ
同社のガイドラインは、実務的かつ詳細な規定が特徴であり、運営体制から禁止事項、法的事項に至るまで網羅しています。ユーザーとの具体的なやり取りを想定し、トラブル防止と円滑なコミュニケーションの両立を図っています。
【構成】
- 運営について
- 返信およびお問い合わせへの対応について
- フォローについて
- ご注意いただきたい事項について(免責事項)
- 禁止事項について
- 準拠法・裁判管轄について
- お問い合せについて
参照:シャープ株式会社「シャープ 公式Twitterアカウントコミュニティ・ガイドライン」
まとめ|SNSガイドラインで企業SNSを適切に運用しよう
今回はSNSガイドラインについて、概要や必要性、作成の6ステップなどをまとめて解説しました。
SNSが企業の重要なコミュニケーションツールとなった現代において、適切な運用を実現するには、明確なガイドラインの策定が必要となることは言うまでもありません。
実効性のあるガイドラインを整備できれば、炎上リスクの軽減やブランド価値の向上にも繋げられるでしょう。
ぜひこの記事を参考に、自社に適したSNSガイドラインの作成に取り組んでみてください。
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この記事の監修者:
山﨑伊代(Meltwate Japanエンタープライズソリューションディレクター)
大学卒業後、新規顧客開拓セールスコンサルタントとしてMeltwater Japan株式会社入社。
食品・生活用品・エンタメ・自動車・機械・学校法人等多種多様な企業・団体の広報・マーケティング部門のデジタル化並びにグローバル化をMeltwaterのソリューションを通して支援。 2016年~2018年グローバルセールスランキング首位。 趣味は山登りとビデオゲーム。