コミュニティマーケティングとは、既存顧客同士のつながりを活かして新規顧客の獲得やブランド価値の向上を目指すマーケティング手法です。近年、SNSの普及による個人の発信力拡大や、広告離れを背景に注目を集めています。
本記事では、コミュニティマーケティングの実施方法やメリット、国内企業の成功事例などを解説します。
コミュニティマーケティングとは
コミュニティマーケティングが重要視される背景
コミュニティマーケティングのメリット
コミュニティマーケティングの代表的な手法
コミュニティマーケティングで注意すべきこと
コミュニティマーケティングの成功事例
企業へ大きな利益をもたらすコミュニティマーケティング
コミュニティマーケティングとは
コミュニティマーケティングとは、企業が既存顧客同士のつながりを活かしてマーケティング活動を展開する手法です。製品やサービスのファンとなった顧客が集うコミュニティを構築し、情報共有を通じてブランド価値の向上を目指します。コミュニティ自体が製品やサービスの魅力の発信源ともなり、新規顧客獲得にも効果的です。
コミュニティマーケティングの活用場面は、専用のコミュニティサイトやファンのためのイベントなど、オンライン・オフラインを問いません。BtoBやBtoCなど、あらゆるビジネスモデルで活用できます。コミュニティを通じて得られた顧客インサイトは、製品開発やサービス改善にも活かすことができ、マーケティング戦略の精度を高めることが可能です。
従来のマーケティングとの違い
従来のマーケティングとコミュニティマーケティングには、3つの大きな違いがあります。
1つ目は「ターゲット」です。従来のマーケティングは潜在顧客に訴えかけるもので、新規顧客の獲得が主な目的でした。一方コミュニティマーケティングは新規顧客だけでなく既存顧客もターゲットとなります。国内の人口減少を受け、既存顧客のLTV(顧客生涯価値)をアップさせることも狙いの1つです。
2つ目は「コミュニケーションの方向性」です。従来型が「企業から顧客へ」という一方向だったのに対し、コミュニティマーケティングでは「顧客と顧客」「顧客と企業」の双方向のやり取りを重視します。
3つ目は「情報発信者」です。従来は企業からの情報発信が中心でしたが、コミュニティマーケティングではファンによる自発的な情報発信を重視しています。
既存顧客の主体性を重視しているのが、コミュニティマーケティングの特徴です。
コミュニティマーケティングが重要視される背景
近年、コミュニティマーケティングが注目を集める背景として、以下の3つの要因が挙げられます
- 個人の発信力の拡大
- 顧客の広告離れ
- 顧客とブランドの関わり方の変化
それぞれ詳しく解説します。
個人の発信力の拡大
SNSの普及により、個人の情報発信力が拡大しています。実際、SNSでの口コミや商品レビューが、購入検討時の重要な判断材料となるケースも少なくありません。
一般ユーザーの情報発信は企業のマーケティングに無視できない影響を与えるようになり、コミュニティマーケティングの重要性が高まっているのです。
顧客の広告離れ
顧客の広告離れもコミュニティマーケティングが注目される背景の1つです。インターネット広告を中心に日本の総広告費は2020年から2023年の間に増えていますが(2023年 日本の広告費)、インターネット広告の効果が下がってきていると感じる企業は約6割に上りました(プレスリリース 2024年4月調査)。
従来の広告では思うような成果を出せないため、より効果的なマーケティング手法としてコミュニティマーケティングが注目を集めているのです。
顧客とブランドの関わり方の変化
SNSの普及により、企業と顧客との関わり方が大きく変化しています。企業から顧客へ情報を投げかけるだけではなく、双方向のやりとりでブランドを作り上げる傾向が見られます。
例えば、X(Twitter)で新商品のアイデアを募集するのが一例です。このように、コミュニティを通じ、顧客の主体性を活かしたマーケティング活動が注目されているのです。
コミュニティマーケティングのメリット
コミュニティマーケティングの主なメリットは以下の4つです。
- マーケティングROI(投資利益率)の向上
- LTV(ライフタイムバリュー)の最大化
- 新規顧客を獲得するチャンスが広がる
- 顧客のニーズや行動に関するインサイトを得られる
それぞれのメリットを詳しく解説します。
マーケティングROI(投資利益率)の向上
ROIとは費用対効果のことです。「新規顧客の獲得コストは既存顧客の維持コストの5倍程度かかる」というマーケティング法則がありますが、コミュニティマーケティングは、従来の広告と比較して低コストで高い効果が期待できます。ファンによる自発的な情報発信は広告費がかからない上、広告よりも他のユーザーに参考にされることが多いからです。
また、コミュニティ内でのファン同士の交流により、既存顧客のロイヤリティも高まるため、長期的な収益向上も期待できます。ファン同士でサービスの不明点を教え合うこともでき、カスタマーサポートのコストも削減できます。
LTV(ライフタイムバリュー)の最大化
コミュニティを通じて顧客との関係性を深めることで、LTV(顧客生涯価値)も最大化できます。コミュニティ内での活発な交流により、顧客の製品理解が深まり、企業やブランドへのロイヤリティが高まっていくためです。
例えば、メンバー間で製品の活用方法が共有されることで、より多くの価値を見出せるようになります。また、コミュニティでの交流を通じて、単なる商品の購入者からブランドのファンへと転換させることも可能です。その結果、継続利用や追加購入につながり、LTVを高められます。
新規顧客を獲得するチャンスが広がる
コミュニティマーケティングを実施すれば、新規顧客を獲得するチャンスも広げられます。コミュニティメンバーによる口コミやレビューは、実際に製品やサービスを利用した率直な感想なので信頼性が高く、潜在顧客の購買行動に大きな影響を与えるためです。
コミュニティメンバーが自然な形で新規顧客を呼び込む好循環が生まれるので、広告に頼る必要もなくなります。また、コミュニティを通じて獲得した顧客は、すでに製品への理解が深まっていることもあり、長期的な関係を築きやすいという利点もあります。
顧客のニーズや行動に関するインサイトを得られる
コミュニティ内での会話から、顧客インサイトを収集できます。製品・サービスに対する改善の要望や、新機能のアイデアなど、従来のアンケート調査では得られにくい生の声を拾い上げられるのです。
さらに、メンバー同士の自然な対話から、潜在的なニーズや課題を発見することもできます。収集した情報は、製品開発やサービスの改善に活用でき、より顧客ニーズに合ったものへと改良するのに役立てられます。
コミュニティマーケティングの代表的な手法
コミュニティマーケティングには、オンライン・オフラインを含め様々な手法があります。主な手法として、以下の4つを詳しく解説します。
- ファンコミュニティを作る
- SNSのハッシュタグを利用する
- ライブ配信を活用する
- オフラインイベントを開催する
ファンコミュニティを作る
自社専用のコミュニティサイトを構築し、ファン同士の交流の場を提供する手法です。ここでは商品の使い方やレビュー、質問への回答など、メンバー同士で活発な情報交換が行われます。企業側でプラットフォームをコントロールできるため、セキュリティ管理や機能のカスタマイズが容易です。
また、顧客の行動データやVOC(Voice of Customer:顧客の声)の収集も可能となり、マーケティング施策の改善に活用できます。会員限定のコンテンツや特典を設けることで、ロイヤリティを高められるのが特徴です。
▶︎あわせて読みたい:VOC分析とは?メリットや効果を最大化する3つのポイント
SNSのハッシュタグを利用する
X(Twitter)やInstagramなどのSNSで、商品やブランド専用のハッシュタグを設定し、ユーザー同士のつながりを促進する手法です。ハッシュタグ付きの投稿を促すキャンペーンを実施することで、自社アカウントをフォローしていない顧客にもリーチし、拡散性を活かした展開もできます。
また、企業側もユーザーの投稿にいいねやコメントで反応することで、双方向のコミュニケーションが可能です。既存のSNSプラットフォームを活用するため、施策を実施するハードルが低いのもメリットです。
ライブ配信を活用する
商品の紹介や使い方のデモンストレーション、質問への回答などをライブ配信で行う手法です。視聴者からのコメントにリアルタイムに応えることで、企業ブランドをより身近に感じてもらえます。
特に新商品の発売時や季節商品の提案など、タイムリーな情報の発信に効果的です。視聴者の反応を見ながら内容を柔軟に変更できる即時性も特徴で、近年ではライブコマース(ライブ配信での商品販売)としても注目されています。
オフラインイベントを開催する
実際にファンが集まって交流できる場を設ける手法です。商品説明会や展示会ではなく、ファン同士の交流を目的としたイベントを開催することで、コミュニティの絆を深められます。
共通の興味を持つ人々が実際に出会うことで、オンラインでは得られない価値ある体験を提供できるのがメリットです。また、イベントの様子をファンがSNSで発信することで、オンライン施策にもつなげられます。企業担当者としては、顧客と直接対話できる機会としても重要な場となります。
コミュニティマーケティングで注意すべきこと
コミュニティマーケティングを成功させるには、以下に注意しましょう。
- コミュニティの構築を焦らない
- コミュニティの目的を曖昧にしない
- コミュニティメンバーを特典で誘導しない
- KPIは測定できる指標を設定する
順番に解説します。
コミュニティの構築を焦らない
コミュニティマーケティングは、短期間で成果を出せる施策ではありません。初期メンバーの獲得から、メンバー間の信頼関係の構築まで、一定の時間が必要なため、長い目で見ることが大切です。
まずは、参加者にとって価値のある場づくりを優先し、徐々にコミュニティを成長させていくことが重要です。特に立ち上げ期には、メンバー数の増加よりも、活発な交流が生まれる環境づくりに注力しましょう。時間をかけて信頼関係を築くことで、自発的な情報発信が生まれ、持続的なコミュニティへと転換できます。
コミュニティの目的を曖昧にしない
コミュニティの目的を明確にし、コミュニティメンバーと共有することが重要です。「なぜこのコミュニティが必要なのか」「どんな価値を提供するのか」を具体的に定義し、運営方針に反映させましょう。目的が不明確だと、企業側の施策がぶれたり、コミュニティメンバーの期待とのミスマッチが生じたりする可能性があります。
また、目的を明確にすることで、具体的な活動計画が立てやすくなり、成果も適切に評価できます。コミュニティメンバーも「コミュニティで何を得られるのか」が分かり、積極的な参加につなげられるでしょう。
コミュニティメンバーを特典で誘導しない
コミュニティメンバーを増やす際、金銭的な報酬や特典による誘導を避けるべきです。特典や報酬で集まったメンバーには主体的な参加が期待できず、コミュニティ全体の信頼性も損なわれるからです。
例えば、紹介特典を設けると、特典目当ての紹介が増え、コミュニティへの貢献意欲の低いメンバーが集まりやすくなります。また、企業から報酬を受け取ることで、メンバーの発言が企業の意向を反映したものと見なされ、情報の信頼性が低下する可能性があります。メンバーが純粋な興味や関心から参加し、自発的に活動できる環境を提供するのが大事です。
KPIは測定できる指標を設定する
コミュニティの成果を評価するには、測定可能なKPI(業績に関する中間目標)を設定することが重要です。抽象的な目標では進捗や成果が把握できず、改善のポイントも見えにくくなります。測定可能な指標としては、質問への回答数やメンバー間のメッセージ数、イベント参加率などが挙げられます。これらの指標を組み合わせることで、コミュニティの活性度を多角的に評価できます。
コミュニティマーケティングを成功させるためには、ツールの活用も不可欠です。Meltwaterが提供するソーシャルメディア管理ツールを使えば、コンテンツの効果測定やエンゲージメントの分析など、コミュニティの活動データを包括的に把握できます。これらのデータをもとに、より効果的な戦略を立案し、コミュニティの成長を促進することが可能です。
ツールについて詳しく知りたい方は、以下のページをご覧ください。
コミュニティマーケティングの成功事例
コミュニティマーケティングの成功事例を3つ紹介します。
1. カゴメ株式会社
カゴメは2015年に独自のコミュニティサイト「&KAGOME」を立ち上げ、ファンとの継続的な関係構築に成功しています。「ファンを知る」「ファンに伝える」「ファンと一緒に体験する」という3つの目的を掲げ、ユーザー参加型のコンテンツ作りを展開しました。
特に「トマコミ」や「レシピのーと」などのコーナーでは、ユーザー同士の活発な情報交換が行われています。また、新商品開発にもユーザーの声を積極的に取り入れ、企業サウンドロゴやチューブ型トマトペーストなどを生み出しています。
2. ベースフード株式会社
完全栄養食の販売を行っているベースフードは、2018年に「BASE FOOD Labo」というユーザーコミュニティを立ち上げました。コミュニティでは、商品改善に関する情報共有「カイゼン報告」の発信や、ユーザー同士でのアレンジレシピの共有、新商品のアイデア投稿などが行われています。特に商品に関するアンケートでは、数時間で600件もの回答が集まるなど、活発に機能しています。
コミュニティは100名からスタートし、2024年には5万人を超える規模に成長。さらに、コミュニティ参加者は非参加者と比べてLTVが1.8倍高いという成果も出ています。
3. 森永製菓株式会社
森永製菓は2013年に、お菓子好きなユーザーが気軽に楽しめる場として「エンゼルPLUS」というファンサイトを開設しました。主なコンテンツは、会員同士が商品について語り合える掲示板や、プレゼントや投稿などのキャンペーン、新商品情報などです。
コミュニティの運営を通じて、ユーザーのブランドロイヤリティが向上するだけでなく、企業側も貴重な顧客インサイトを収集できます。2021年10月末時点で会員数は50万人に達し、ファンを増やし続けています。
企業へ大きな利益をもたらすコミュニティマーケティング
コミュニティマーケティングは従来の広告主導のマーケティングとは異なるアプローチで、企業に大きな価値をもたらします。具体的には、顧客の声を製品開発に活かしたり、顧客との継続的な関係構築によってLTV(顧客生涯価値)を高めたりすることができます。
重要なのは、コミュニティの目的を明確にし、コミュニティメンバーにとって価値ある場を作り上げることです。適切な運営と継続的な改善により、企業と顧客の双方にとって意義のある取り組みとなるでしょう。
この記事の監修者:
山﨑伊代(Meltwate Japanエンタープライズソリューションディレクター)
大学卒業後、新規顧客開拓セールスコンサルタントとしてMeltwater Japan株式会社入社。
食品・生活用品・エンタメ・自動車・機械・学校法人等多種多様な企業・団体の広報・マーケティング部門のデジタル化並びにグローバル化をMeltwaterのソリューションを通して支援。 2016年~2018年グローバルセールスランキング首位。 趣味は山登りとビデオゲーム。