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世界の“推したい度”を比べてみた NPS®から見る国別の消費者傾向

世界の“推したい度”を比べてみた NPS®から見る国別の消費者傾向


宮崎桃

Jul 31, 2025

NPS®は顧客ロイヤルティを測る国際的指標として活用されています。NPS®スコアは、その製品やサービスに対する顧客ロイヤルティの度合いを示し、消費者がどの程度のファンなのか、または不満を持っているかなどが分かる指標です。ただし、NPS®スコアには各国の文化や評価スタイルが大きく影響するため、裏にある文化的な違いを正しく読み解くことが製品やサービスの改善につながります。

本記事は、世界のNPS®データを基に、それぞれの国の推奨行動の違いや文化背景を分析し、グローバル戦略に役立つ視点を探っていくものです。

NPS®とは?

NPS®とは、Net Promoter Score(ネット・プロモーター・スコア)の略で、顧客ロイヤルティ指標です。NPS®は顧客満足度(CS:Customer Satisfaction)とは似て非なるもので、単に満足度を測るものではなく、商品やサービスをいかに他人にサービスや商品を勧めたいかという「推奨度」をスコア化した指標として世界で活用されています。

NPS®の指標

NPS®は、2003年にアメリカの経営コンサルティング企業であるベイン・アンド・カンパニー社のフレッド・ライクヘルド氏を中心としたチームにより開発されました。

NPS®では、「この商品・サービスを友人や同僚に薦める可能性はどのくらいありますか?」という質問に対して、回答者に0点~10点で回答してもらいます。10点~9点は「推奨者」、8点~7点は「中立者」、6点~0点は「批判者」として3つのセグメントに分類し、「推奨者」の割合から「批判者」の割合を引いた数値がNPS®スコアとなるのです。


顧客ロイヤルティ指標としてのNPS®の活用背景

従来の顧客満足度調査が、「自分がサービスや商品に対して満足しているか」という体験の満足度を測るものであることに対し、NPS®は「サービスや商品を親しい人に薦めますか」という他人に勧める行動意欲を問うものです。

NPS®は「推奨意欲」を数値化することで、「推奨者」「中立者」「批判者」それぞれに対して異なる施策を打つことができます。例えば、「推奨者」にはアンバサダープログラムや紹介キャンペーンを、「中立者」にはキャンペーンを送付し、「批判者」には不満の原因をヒアリングしてCX(顧客体験)の向上を図るなど、セグメント毎に分けた改善策に取り組むことで、より良いサービスや商品の提供や経営判断に活用できるのです。

【国別】NPS®スコアからみえてくる消費者行動の特徴

ここからは、オンライン調査ツールを提供するアメリカのSurveyMonkey社が実施した調査結果を見ていきましょう。NPS®は日本のみならず、世界で広く活用されていますが、国によって文化背景が異なるため、スコアをそのまま比較することには一定の限界があります。


当調査では、日本を含む世界9カ国を対象に「どの程度このブランドを友人や家族に勧めるか」という質問に対するNPS®スコアを比較し、傾向を分析しました。また、どの国がNPS®スコアが高くなる傾向があるかとその理由について探っています。

【国別】NPS®スコアからみえてくる消費者行動の特徴

日本:好きなブランドの推薦に対して慎重

日本では、調査対象国のなかで最もNPS®スコアが低く、-52という結果になっています。全体の割合では、「推奨者」は11%、「中立者」は63%、「批判者」は26%と、「推奨者」が最少、「中立者」が最多でした。

「どの程度ブランドに満足しているか」という問いに対する回答では、「Very satisfied(大変満足)」は全体の4分の1にあたる25%、「Somewhat satisfied(やや満足)」が過半数を占める54%、「Neither satisfied nor dissatisfied(どちらとも言えない)」が最も少ない20%となっています。

日本の消費者は世界でも品質やサービスに対して厳しい判断基準を持っていると言われていますが、NPS®スコアでも、他人への推奨や高評価を避け、あいまいな評価に留まる傾向があることが分かりました。


ブラジル:推薦に積極的

ブラジルでは、日本とは対照的にNPS®スコアは+62%と、調査対象国のなかで最高値を記録しました。全体の割合では、「推奨者」は71%、「中立者」は21%、「批判者」は9%と、「推奨者」が最多という結果になっています。

「どの程度ブランドに満足しているか」という質問に対する回答では、「Very satisfied(大変満足)」が74%と、全体の7割以上を占めました。なかでも、「購入体験(Purchase Experience)」や「品質(Quality)」「使いやすさ(Ease of use)」などの項目で群を抜く満足度を示しています。

ブラジルでは、期待を上回る体験が推奨意欲に直結しやすく、他者への推奨が積極的に行われる市場であることがNPS®スコアから明らかになりました。


インド:高評価をストレートに表現

インドのNPS®スコアは、ブラジルに次ぐ+51という結果になりました。内訳を見ると、「推奨者」は69%、「中立者」は27%、「批判者」は11%と、ブラジルと同様に「推奨者」が最多となっています。

なかでも、インドでは「Affordability(価格の納得感)」に対しての満足度が他国を大きく引き離してトップとなっているのが特徴です。「どの程度ブランドに満足しているか」という質問に対する回答では、「Design(デザイン)」と「Values(価値観)」において「Very satisfied(大変満足)」の割合が最も高くなっています。

インドでは、実用性と合理性のバランスが支持されており、高評価がそのまま推奨意欲に反映される文化的背景も、NPS®スコアの高さを後押ししていると考えられるでしょう。


オーストラリア:実用性を重視した安定志向

オーストラリアのNPS®スコアは+30で、調査対象国のなかで3位にランクインしました。「推奨者」は44%、「中立者」は43%、「批判者」は13%と、「推奨者」と「中立者」がほぼ同じ割合で、それぞれ約4割を占めています。

「Very satisfied(大変満足)」では、「品質(Quality)」(59%)や「使いやすさ(Ease of use)」(56%)など、日常の使い勝手に関する項目で評価が比較的高く、実用的な満足感が推奨意欲に繋がっている様子が見られました。

一方、「Affordability(価格)」(29%)や「Values(価値観)」(29%)では満足感は比較的低く、項目ごとに評価にばらつきがある点が他国との違いと言えます。


アメリカ:品質と体験への評価が推奨に直結

アメリカのNPS®スコアは、オーストラリアと同じ+30でした。

「推奨者」は49%、「中立者」は32%、「批判者」は19%と、約半数を「推奨者」が占めています。

「Very satisfied(大変満足)」の内訳を見ていくと、「品質(Quality)」(62%)や「使いやすさ(Ease of use)」(59%)、「Purchase experience(購入体験)」(56%)で特に高い評価を得ています。特に、「品質(Quality)」はアメリカのNPS®スコアの変動に対する寄与率が0.63(63%)と高く、最も影響力のあるキーファクターとなっているため、アメリカでは商品に対する信頼性が推奨意欲に直結していると考えられるでしょう。

イギリス:控えめに支持する慎重派

イギリスのNPS®スコアは、オーストラリアやアメリカよりわずかに低い、+28という結果でした。「推奨者」は45%、「中立者」は38%、「批判者」は17%と、「推奨者」は過半数には届かないものの、約4割を占めています。

「Very satisfied(大変満足)」では、全体的に回答がばらけているのが特徴です。「品質(Quality)」(57%)と「使いやすさ(Ease of use)」(54%)がそれぞれ過半数を占め、評価は安定していると言えるでしょう。得点分布では、10点(推奨)が28%、8点(推奨に近い中立)が24%と、堅実かつ慎重な推薦態度がロイヤルティのスタイルに反映されています。


文化的要因がNPS®に与える影響

このように、同じ商品に対するNPS®スコアでも、国によってスコアは大きく異なることが判明しました。このようなスコアの違いが生じる一因として、ハイコンテクスト(High-Context)文化の国とローコンテクスト(Low-Context)文化の国があることが考えられます。

ハイコンテクスト文化とは、日本や中国語圏などの、言葉にしなくても文脈から相手の気持ちを察して理解する文化です。対して、ローコンテクスト文化とは、アメリカやイギリスなどの英語圏やドイツをはじめとする、明確に情報を言語化することが重視される文化を指します。

NPS®の背景にある文化の違い

各国のNPS®スコアには、顧客満足度だけでなく、「どのように評価を伝えるか」という消費者が持つ文化背景も大きく関係していると推測できます。

特に、言葉にせず暗黙的にコミュニケーションを取るハイコンテクスト文化と、言葉にすることを重要視し、直接的かつ明確に伝えるローコンテクスト文化の違いを考慮することは、NPS®スコアを読み解く上で欠かせない観点です。

ここからは、ハイコンテクスト文化とローコンテクスト文化それぞれに属する国々の特徴を具体的に見ていきましょう。

ハイコンテクスト文化とローコンテクスト文化それぞれに属する国々の特徴

ハイコンテクスト文化では推奨に慎重な傾向

日本をはじめ、韓国や中国などのアジア圏の文化はハイコンテクスト文化です。ハイコンテクスト文化では、曖昧な表現を好む傾向があります。ローコンテクスト文化とは異なり、話し手はすべてを言葉にせず、読み手や聞き手が省略された表現を補って理解することが求められるのです。

そのため、消費者はたとえ商品やサービスに満足していたとしても、あえて高得点を与えたり、推薦したりしないことも考えられ、NPS®では実態よりも控えめなスコアとなる可能性があります。


ローコンテクスト文化では評価を明確に表現する傾向

反対に、アメリカやドイツ、スカンジナビア諸国(スウェーデン・ノルウェー・デンマークなど)には情報を明確に、はっきりと言語化する文化があります。そのため、消費者もフィードバックとして好意や不満をストレートに言葉で伝える傾向があるのです。

ローコンテクスト文化では「良いと思えば勧める」という行動が自然に行われるため、NPS®スコアにも透明性のある率直な評価がそのまま反映されやすい文化と言えるでしょう。

グローバル戦略を考える際に企業が取るべきアクション

NPS®スコアは消費者の商品やサービスに対する愛着や信頼度を測るだけでなく、ネガティブなフィードバックを改善に活かすことができる指標です。回答者の背景にある文化的要因を踏まえてスコアを読み解くことで、NPS®スコアを最大限に活用することができます。

ここからは、企業が取るべきマーケティングアクションでのポイントをご紹介しましょう。

ハイコンテクスト文化圏では“察する配慮”が重要

日本や韓国などのハイコンテクスト文化圏では、直接的な表現を避ける傾向があります。そのため、明確な評価や推奨が少なく、低NPS®スコアでも本音を見誤らない視点が重要です。

NPS®スコアを正確に理解するためには、空気や関係性を重視した調査設計や、現地の文化に精通した信頼できる現地スタッフと顧客との対話から非言語的な文脈を読み取り、実態を丁寧に把握する姿勢が求められます。

ローコンテクスト文化圏では“明快な伝達と即応”が重要

アメリカやドイツのようなローコンテクスト文化圏では、率直に意見を伝える文化が根付いています。そのため、高評価や低評価の理由も具体的にフィードバックしてくれることが多いでしょう。

NPS®スコアの数値は即座に改善策に反映し、成果を可視化する姿勢が信頼に直結します。「感情」より「論理」や「エビデンス(証拠)」が重視されるため、SNSや広告で積極的に活用するのも良いでしょう。例えば、推奨者には紹介特典を付与するリファラルキャンペーンを実施したり、批判的なフィードバックに対しては、実際に改善した内容を公表し、消費者の声が反映されたことを実感してもらったりします。こうした取り組みが信頼につながっていくと言えるでしょう。

共通して重要なのは「信頼を築く姿勢」

NPS®スコアの活用においては、ハイコンテクスト文化圏・ローコンテクスト文化圏それぞれの文化を理解して違いを尊重することで、消費者との信頼関係の構築に努めることが不可欠です。定量調査と定性調査の両方を組み合わせたマーケティング調査設計をはじめ、現地の消費者のリアルな声を反映できる体制作りや、継続的なフィードバックループの構築により、どちらの文化圏でも成果を生みやすいアプローチが可能になります。

文化の差に翻弄されるのではなく、その中で顧客と向き合う「共通軸」を持つことが成功の鍵と言えるでしょう。


まとめ

NPS®スコアは単なる顧客満足度ではなく、「誰が・なぜ推奨するか」を映し出す文化的鏡でもあります。商品やサービスに対する各国の期待や表現方法を理解することで、データの裏にある本質的な顧客心理が見えてくるでしょう。

グローバルに展開する市場では、各国のNPS®スコアを単純に比較するのではなく、文化背景の “違い” を前提に戦略を最適化することが、真のロイヤルティとブランド信頼の構築に直結します。

出典:Bain & Company, Inc. NPS® とは?

この記事の監修者:

宮崎桃(Meltwate Japanエンタープライズソリューションディレクター)

国際基督教大学卒。2016年よりMeltwater Japan株式会社にて新規営業を担当。 2020年よりエンタープライズソリューションディレクターとして大手企業向けのソリューションを提供。 ソーシャルメディアデータ活用による企業の課題解決・ブランディング支援の実績多数。 趣味は映画鑑賞、激辛グルメ、ゲーム

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