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企業のコミュニケーションリスクについて

「炎上」よりも怖い企業にとってのコミュニケーションリスクとは?


Sep 29, 2023

ソーシャルメディアで交わされるユーザーの自然なやりとりを分析してマーケティングに活用する「ソーシャルリスニング」。重要な施策だが、人海戦術で実行するのは現実的に不可能だ。有用なツールとは。

(こちらの記事は2023年9月にTechTarget Japanに掲載されたインタビュー記事の転載です。)

日本企業に特有のコミュニケーション課題とは

あらゆる業務をデジタル化して効率化を進めつつ、デジタルによる新たな価値を創造しようと、さまざまな企業がデジタルトランスフォーメーション(DX)に意気込んでいる。マーケティングや広報、PRなどのコミュニケーション領域も例外ではない。さまざまな企業が、従来のマスメディアのみならずデジタルチャネルを通じた情報発信に精力的に取り組んでいる。今やWebサイトやソーシャルメディアのアカウントを持たない企業の方が希少になりつつある。

しかしソーシャルメディアで双方向のコミュニケーションを効果的に実現することは容易ではない。Meltwater Japanのカントリーマネージャーであるティム・オルーク氏は「今の日本企業はソーシャルメディアで顧客と関係性を構築することに、あまり積極的ではないように見えます」と指摘する。同氏によれば、積極的に取り組みを増やすべき施策は「自社に関する外部の声を聴く努力」だ。

企業がXやFacebookに公式アカウントを持っていても、一方的な情報発信ばかりになってしまうのはなぜなのか。企業のソーシャルメディア活用事情をよく知るオルーク氏は、日本企業に顕著な課題として「外部サービスへの過度な依存」と「リスクを避けようとする組織風土」の2つを挙げる。

以前はマスメディア向けのコミュニケーション戦略が中心だったことから、日本企業は戦略の立案から実行までのほとんどを広告代理店に委ねてしまうことが珍しくなかった。もちろん、広告代理店は価値あるサービスを提供してきた。近年ではソーシャルメディアの登場で顧客接点が多様化しており、人々に情報が到達するまでの過程はより複雑なものになった。これは、マスメディアを利用した画一的な顧客コミュニケーションだけでは、企業が伝えたいことを十分に伝えにくくなったことを意味する。

今日、企業は自らの手で多様な顧客接点を利用し、個々の顧客と関係を構築・維持することが求められるようになってきた。顧客接点の全てをカバーしたくても、予算や人員を最小限に絞った体制のままでそれを実現するのは無理がある。一方的な情報発信のみならず、顧客が自社について語る言葉にまで耳を傾けるとなれば、さらにハードルは上がる。

オルーク氏が指摘する「リスクを避けようとする組織風土」とは、言い方を変えれば「事なかれ主義」だ。経営幹部の発言や広告のメッセージ、公式アカウントで発したうかつな一言などを発端とした「炎上」(インターネットで批判が殺到し、燃え広がるように拡散すること)はしばしば大きなニュースになる。軽はずみな顧客コミュニケーションでブランドイメージを大きく損ねる企業がある一方で、それを横目になるべくソーシャルメディアから距離を置こうとする企業もある。オルーク氏は「炎上リスクを恐れるばかりで顧客と信頼関係を築く機会を活用しないのは、自社のプレゼンスを高める機会を放棄するのと同じことだ」と説き、ソーシャルメディアに消極的な企業のスタンスに異を唱える。不用意な炎上を避けるという点では、むしろリスクコントロールのためにソーシャルメディアの声に積極的に耳を傾ける必要があるとも言える。

約3万4000社が利用するソーシャルリスニングツールとは

とはいえ、インターネットにあふれる膨大な情報の全てをチェックするのは、途方もない作業になる。少なくとも人の手で実行するのは現実的に不可能だ。自社に関する外部の声に耳を傾け、それを分析し、インサイトを得るためには専用のツールが必要になる。

2001年にノルウェーのオスロで創業したMeltwaterは、そうしたツールを提供する企業だ。同社のビジネスは、オンラインニュースのモニタリングを効率化するソフトウェアの提供から始まった。現在は、自社に関するオンラインニュースの記事とソーシャルメディアの評判を、ネガティブな声もポジティブな声も一括して可視化し、分析するサービスへと進化している。2023年現在、世界中の企業や行政機関を含む約3万4000組織がMeltwaterのツールを導入している。

Meltwater product image

Meltwaterは2008年に日本法人を設立して以来、公共機関やB2C(企業対消費者の取引)企業を中心にビジネスを成長させてきた。同社は主に企業の広報やPR担当者向けのツールを提供してきたが、近年はマーケター向けの口コミ分析ツールや、潜在的なニーズを掘り起こすための消費者インサイトツール、影響力の大きいインフルエンサーを発見するためのインフルエンサーマーケティングツールなど、多様なツールを提供している。

オルーク氏によると、Meltwaterが提供する製品・サービス群の強みは、Facebookなどの世界的なソーシャルメディアだけではなく、特定国家のローカルなソーシャルメディアもモニタリングできるカバレッジの広さだ。日本のみならず北米や欧州、中東、アフリカ、アジア太平洋地域など、世界各地のソーシャルメディアをモニタリングすることが可能になる。2023年にはTikTok社との提携を強化し、ショート動画共有サービス「TikTok」のモニタリング機能を拡充した。

MeltwaterはSaaS(Software as a Service)の形態でツールを提供している。同社は売り上げの3分の1を研究開発(R&D)に投資しており、機能追加やアップデートを毎月実施している。データの取得容量に関する制限がない点は、ユーザー企業にとってうれしいポイントだ。

単なるモニタリングツールではない

「Meltwaterはユニークな存在なので、競合を意識する場面はあまりないのです」とオルーク氏は語る。Meltwaterが独自性を維持するために重視していることは、ユーザー企業がより多くのデータにアクセスできるようにすることだ。前述したように、ユーザー企業がMeltwaterのツールでモニタリングできるソーシャルメディアの種類は多岐にわたる。つまりユーザー企業はより多くのデータソースにアクセスできる。広報やPRの反響を可視化するレポーティング機能をはじめ、Meltwaterがさまざまなニーズに応じた機能やツールを拡充させてきたことも、データを重視する意思の表れだ。

オルーク氏によると、Meltwaterは自社のツールを日本企業に活用してもらうために、2つの方向性で努力を続けてきた。1つ目はデータの信頼性向上だ。ソーシャルメディアで話題になっている場所が日本であれ海外であれ、Meltwaterのツールは可能な限り多くのデータをモニタリングする設計になっている。とはいえ、データがただ多ければいいというものではない。問われるのはデータの信頼性だ。そこでMeltwaterはユーザー企業に「信頼できる顧客インサイトをシンプルな方法で提供する」という点を強調して製品を案内している。

方向性の2つ目は、データドリブンな意思決定の支援だ。ダッシュボードやレポートに求められる価値とは、データを可視化して分かりやすく示し、そこから得られるインサイトが意思決定者の「Next Best Action」(次の最善の一手)につながることだ。今後のマーケティング予算をどのメディアに割り当てるのが適切か。自社がエンゲージしたい顧客にはどのようなキャンペーンを実施するのが効果的なのか。販売促進よりも製品改善に力を入れるべきなのかどうか。顧客は製品のどこを改善してほしいと考えているのか――。このような判断を可能にする情報をMeltwaterのツールで得られるよう、同社は機能強化を続けている。

自社に関する評判をビジネスに生かす

「Meltwaterのツールを使うことで、広告代理店に依存しなくても企業が顧客とつながり、さらに自社と相性の良いインフルエンサーを見つけ出し、共同で顧客関係を深めることが可能になる」というのがオルーク氏の主張だ。「私たちは顧客に関する情報を深く掘り下げる製品を提供しています。どのような顧客の声があるのか。競合他社と比較してどうか。性別、年齢、居住地などの属性で見たとき、どのような傾向があるのか。そのインサイトは市場における自社のポジショニングの把握に役立ちます」(オルーク氏)

Meltwater Product Image

顧客エンゲージメントの追求にゴールはない。Meltwaterは企業の課題に応じて技術開発を続けており、近年は特にAI(人工知能)技術への投資を強化している。Meltwaterが2023年6月にニューヨークで開催した年次カンファレンスでは、テキストや画像を自動生成するAI技術「ジェネレーティブAI」(生成AI)の分野に注力する方針を打ち出している。オルーク氏はMeltwater製品の今後の方向性について、次のように語る。「デジタルに精通したお客さまは、詳細な分析技術を活用して顧客との関係を深める機会を探索しています。われわれの強みはモニタリング対象となるデータソースの規模です。Meltwaterは今後、大量のデータの中からお客さまが必要とする適切な情報を抽出する機能を強化するでしょう」

企業がソーシャルメディアに積極的に関与することは、決してリスクではない。それどころか、顧客の声に耳を傾けて適切なコミュニケーションを取ることは、顧客の離反防止や製品の改善に役立つ。自社のファンになった顧客が新たな顧客を連れてくることにつながる可能性もある。ソーシャルメディアを通じて自社に関する外部の声を積極的に収集し、顧客エンゲージメントを高めることは、ビジネスの成長のためにも必要な営みなのだ。

Tim O'Rourke (ティム・オルーク)

2012年Meltwater入社。アジア太平洋地域の4都市での勤務を経て、2022年10月にMeltwater Japanカントリーマネージャーに就任。
アジア太平洋地域の多様な市場において、メディアインテリジェンス業界が劇的にデジタルファーストへとシフトしていく様を最前線で経験。
日本が特にマーケティング領域でのDX化において、大きな飛躍を迎える重要な時期にあると考えている。